高まる療養支援士の必要性 病気の子供の不安を解消

産経ニュース
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 病気になった子供が抱く不安、恐れ、入院生活のストレスを、
遊びや精神的サポートなどを通して取り除く「子ども療養支援士(CCS)」。
欧米では半世紀近い歴史をもち、専門職として子供病院や小児病棟でチーム医療を担う。
ただ日本での認知度はまだ低く、国内で活躍しているのは約40人。
病気の子供たちの権利の一つとして、CCSの普及を求める声が高まっている。(服部素子)



写真を見せながら

 「明日、着替えて待っていると、ベッドがお迎えにくるよ」

 大阪府立母子保健総合医療センター(大阪府和泉市)のプレールーム。
翌日手術を受ける4歳の女の子を前に、
ホスピタル・プレイ士と呼ばれる同センターのCCSが、
病室から手術室までの廊下やドア、ベッドを押す看護師の姿、
手術室の天井のライトなどの写真を見せながら話しかける。

 「朝起きたら、これに着替えるんだよ。『手術衣』っていうんだけど、言えるかな?」
「このマスクをお口のところにあてると、ブドウのにおいがするよ」
と話しながら手術衣やマスクを見せると、緊張気味だった女の子も、うなずく。

 このやりとりは、「心の準備」(プレパレーション)と呼ばれる、
CCSの重要な仕事の一つ。

 「プレパレーションを行うと4歳児でも、おおかたの不安を軽減できます。
例えば手術を説明するときには
、『眠っている間に痛いところをよい具合にしてくれるのが手術だよ』
というふうに説明します」

 そう話すのは、同センターのホスピタル・プレイ士、後藤真千子さん(61)。
日本のCCSのパイオニアの一人で、平成18年から同センターで
ホスピタル・プレイ士として働き、現在は後進の指導にあたっている。

 CCSは、英国では「ホスピタル・プレイ・スペシャリスト(HPS)」、
米国では「チャイルド・ライフ・スペシャリスト(CLS)」と呼ばれている。
後藤さんは夫の転勤で4人の子供を連れてイギリスに住んでいた際、
子供の病気で飛び込んだ病院でHPSの存在を知り、心を動かされた。
滞英中に同国の国家資格であるHPSを取得。英国の病院でHPSとして働いた。

常に子供の立場で

 CCSは、医療を受ける子供や家族との信頼関係を築き、
プレパレーションのほか、採血などの処置に立ち合う。
本やおもちゃなどで子供を集中させて、処置の痛みから気をそらせるなど、
“子供の味方”として医療チームに加わる。

 「大切なのは、子供の立場に立ちきって、何を怖がっているのかを把握し、
ごまかさず、分かる言葉で真実を話すことです。
子供自身が納得し『手術や処置をがんばろう』という気持ちになるよう援助します」
と後藤さんは話す。

 後藤さんのように、海外で資格を得た人たちが、
日本で活動を始め、その存在を知られるようになったのは約15年前。
本格的に日本でCCSを養成しようと、
平成22年には、「子ども療養支援協会」(事務局・順天堂大学医学部小児科)が設立された。
現在4期生が研修中だ。

 ただ、実習指導できる人材の不足から、
受講生の受け入れは1年に数人が限度。
現在、国内の病院で働くCCSは約40人にとどまるという。
子ども療養支援協会長の藤村正哲・大阪府立母子保健総合医療センター名誉総長は、
英国では小児病床10人から15人に1人のHPSを配置、
米国では小児科のある病院の99%がCLSを採用していると指摘。
「医療を受ける子供の権利として、日本のすべての小児病棟への
CCSの配置が求められる」と話している。
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