保育施設、後絶たぬ死亡事故

YOMIURI ONLINE
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状況知りたい」親の願い

 保育施設で子どもの死亡事故が後を絶たない。

 2015年4月の「子ども・子育て支援新制度」の実施に向け、
政府の有識者検討会は事故情報の集約や公表の方法などを決めた。
今後、再発防止に向けた検証の方法などを議論する。
事故の現状と再発防止策の課題を探った。

 「娘はなぜ命を落としたのか。詳しい状況を知りたい」。
宇都宮市内の認可外保育施設で今年7月、
長女の山口愛美利えみりちゃん(当時9か月)を亡くした父親(49)は訴える。

 両親とも泊まりがけで出張する必要があり、長女を施設に預けたところ、
早朝、施設から母親(36)の携帯電話に、
長女が「呼吸をしていない」と連絡があった。
両親が駆け付けた時には、既に死亡していた。

 両親は施設側から話を聞いたが、説明が不十分と感じたため、
施設を指導監督する宇都宮市に尋ねた。
しかし、「市からは、具体的な内容は教えてもらえなかった」と父親は話す。

両親は現在、市の情報公開制度で施設に関する資料などを入手して、
施設や事故状況を調べている。
「子を失って精神的につらい中で、
遺族自らが探らなければ情報が得られないのはおかしい」と憤る。

 保育施設での死亡事故が増えている=グラフ=。
13年に厚生労働省に報告があった死亡事故は19件で、04年以降で最多。
うち認可保育所が4件、認可外保育施設が15件だった。

 19件のうち主な死因は病死が6件、乳幼児突然死症候群(SIDS)が2件、
窒息が1件で残り10件は原因不明となっている。
また16件は睡眠中の事故だった。
今年も、川遊びや昼寝の最中に亡くなるなどの事故が起きている。

 死亡事故が起きても原因不明の事例が多い上、
第三者を交えて検証が行われるケースは少ない。
そのため遺族を中心に、「事故から学び、再発防止につなげるべきだ」との指摘があった。

国への報告義務

 政府は、15年4月実施予定の「子ども・子育て支援新制度」で、
自治体が認可した保育施設に対し、事故の発生や再発防止措置、
事故発生時の市町村への連絡などを初めて義務づけた。

 新制度の実施に向け、政府は今年9月、重大事故の再発防止策に関して、
有識者による検討会を設けた。
11月に中間取りまとめを行い、方針を示した=表=。
死亡事故や30日以上の治療が必要な事故を国への報告対象とし、
内容はホームページで公表、データベース化することなどが固まった。

 ただ、事故の報告のあり方を巡り、
保育施設などで子どもを亡くした保護者らの団体
「赤ちゃんの急死を考える会」の藤井真希さん(35)は、
「保護者にきちんと事故の状況を伝える仕組みになっていない」と指摘する。

 これまでの報告書は施設任せなのが実情で、
子どもの月齢が間違っていたり、保護者が施設から聞いた内容と
異なる事実が書かれていたりしたこともあった。
「報告内容が保護者への説明と違っていても、そのままになっている。
これでは正しく事故が報告されず、事故の再発防止につながらない」と、藤井さんは話す。

 また、一時預かりや病児保育などの保育事業、
認可外保育施設については、事故報告の対象だが、報告に法的な義務はない。
これらについて、確実に報告させるための方策も不可欠だ。

検証には枠組み作り必要

 保育施設での重大事故の再発防止には、
まず事故原因の分析や事故の検証の枠組み作りが必要だ。
それにより事故の教訓を防止策に生かせる。

 「事故の概要すら教えてもらえなかったのが、
実例を誰でも見られるようになるのは一歩前進」。
NPO法人全国小規模保育協議会理事長の駒崎弘樹さんは、
事故情報がインターネットで公表される点を評価する。
その上で「再発防止策を考えるためにも、施設名や個人名は非公開でも、
持病の有無など、事故の背景を知るのに重要な情報は公開してほしい」と注文する。

 公益社団法人全国私立保育園連盟常務理事の塚本秀一さんは、
独自に収集した事故事例を職員会議や研修で紹介し、再発防止に生かしている。
事故情報のデータベース化により、
「実例を材料にすることで職員への注意喚起がしやすくなる」と話す。
ただ、公表に際して、保育所が特定されないような配慮を求める。

 また、これまで政府は、報告された事故の詳しい原因分析などはしてこなかった。
「集まった報告を専門家が分析し、共通する事故原因がないかどうかを調べたり、
施設側のミスが疑われる事故について特別に調査したりする仕組みが必要だ」と駒崎さん。

 政府の検討会でも、年明け以降、
事故情報の分析や事故の検証について議論される予定だ。
検討会の委員、愛知県碧南市の栗並えみさんは、
国が死亡事故検証の枠組みを作ることを求める。

 栗並さんの長男は、保育所でおやつをのどに詰まらせて亡くなった。
栗並さんは原因究明を求めて署名活動を行い、
事故の1年半後に県と市が第三者委員会を設置した。
検証により、食事の与え方を含む保育所の事故対応指針の作成や面積基準の改善など、
一定の成果があった。
ただ、「関係者の記憶が薄れ、検証が困難だった点も多い」とし、
「都道府県と市町村が役割分担し、第三者も入る検証の枠組みがあれば、
速やかに検証が行われるようになるはず」と話す。

 ジャーナリストの猪熊弘子さんは「保育の現場では、
事故防止への認識が甘い施設や職員も多い。
事故の分析や検証の結果と再発防止策が現場で生かされることが重要。
事故防止について保育士養成校で教育するなど、
いかに現場に浸透させていくかが問われる」と指摘する。
(小坂佳子、吉田尚大、矢子奈穂)

重大事故の再発防止策に関する有識者検討会の中間とりまとめ概要
▽報告の対象施設・事業 自治体が認可する保育施設、
一時保育や病児保育などの保育事業、認可外保育施設
▽国へ報告する事故 死亡や治療期間が30日以上などの重大な事故
▽報告内容 施設概況や事故発生の状況、発生後の対応、要因分析など
▽集約方法 施設から自治体を通じて国へ報告
▽事故の公表 報告内容をホームページで公表、データベース化する
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