(1)「英語漬け授業」理想と現実

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 2005年1月に始まった連載「教育ルネサンス」は、まもなく2000回を迎える。

 変化する学びの現場を追いながら、教育再興の道筋を考えてきた。
取り組みはその後どのように展開し、子どもたちはどんな大人に成長したのか。
これまで紹介した現場を再訪する。

学力、英語力にばらつき…群馬の小中高一貫

 10月上旬、群馬県太田市の小中高一貫校
「ぐんま国際アカデミー」(GKA)9年生(中学3年)の社会科授業。
教員のジェームス・テイラーさん(31)が、
第2次世界大戦で日本への原爆投下を命じた大統領について英語で問いかけた。
「Was Truman guilty of war crimes?(トルーマン米大統領は戦争犯罪で有罪か?)」。
生徒たちは肯定と否定に分かれ、英語で議論した。

 2005年、国語など一部を除き授業を全て英語で行うイマージョン(英語漬け)教育を掲げて
開校。授業時間数の7割が英語による授業で、
小学校6年間で計約4900時間、中学校3年間で計約2200時間に上る。

 英語の議論で批判的思考力や課題解決力を育むが、黙ったままの生徒もいる。
「英語力の差に加え、普通の学校と同じように学力差もある。
どう引き上げていくかが課題」と社会科の桐生朋文教諭(30)。

 昨年11月に中等部(7~9年生)生徒249人が団体受験した
英語力テストTOEIC(990点満点)の平均点は577点。
大学生平均(445点)を上回り、8人は900点を超えたが、ばらつきもある。

 多くの親は英語力が追いつかず、「勉強を教えられない」と悩む。
同校周辺では、宿題や補習を個別指導する英会話教室や塾が人気を集めている。

「日本語の大学入試に対応できるのか」

 開校時、小4で入学した1期生が今春、高等部を卒業した。
入学時には59人いたが、卒業生は17人。
残りの生徒は別の進学高校などに進んだ。
太田市出身で、立教大1年の柳紀行さん(18)はラグビーに打ち込みたいと
立教新座高(埼玉県)へ。「英語漬けで日本語の大学入試に対応できるのか、
同級生の多くが不安がっていた」

 GKA高等部では1期生が高校2年になる12年度、国内進学コースを設けた。
英語を除き、大学入試センター試験の対象になる教科を日本語で教える。

 一方で、世界の大学入学資格を取得できる教育プログラム・国際バカロレア(IB)のコースも
設置。国語以外全教科が英語による授業だ。
1期生で、栃木県足利市出身の森下なおみさん(19)は
米イリノイ州の名門私立大ノックス・カレッジに進学。
「高等部では英語の課題図書を読み込まないと授業に参加できないので未明まで予習した。
米国で通用する力がついた」。宇宙関連の仕事を志望する。

 森下さん以外の1期生のうち4人は国公立大、9人が私大に進み、3人が浪人中だ。
「子どもに将来、英語で不自由させたくないが、
大学受験で不利にならないかも気になる」。
群馬県内の会社員男性(44)は長女(4)を入学させるか迷う。

 グローバル人材育成の理想と、大学合格という現実のギャップに直面してきたGKAだが、
追い風もある。東大などがIBの成績を評価する入試改革を進める。
井上春樹・GKA初等部副校長(69)は
「グローバル社会で生きる力を身につける教育が、認められてきた。
真価は卒業生が社会に出てからわかるでしょう」と語った。(伊藤史彦)

ぐんま国際アカデミー 
太田市が中心になって設立し、学校法人(理事長・清水聖義太田市長)が運営する私立校。
現在は原則小1のみ90人募集。
学費は年約80万円、ほかに入学金など。
今年度の全児童生徒961人のうち群馬県外からの通学は約4分の1。
教員106人のほぼ半数が外国人。

◇過去の教育ルネサンス
 ぐんま国際アカデミーは、教育ルネサンスの初回、
2005年1月25日の「変化の最前線」で開校前の準備教室を紹介。
その後も英語による授業の現状などを取り上げた。


「英語漬け」教育、小学校10校で実施

 英語で他教科を指導するイマージョン教育は、
英語とフランス語が公用語のカナダで1960年代、
英語を母語とする子どもたちにフランス語を習得させるために開発された。
イマージョン(immersion)は、英語で「漬けること」を意味する。

 日本でのイマージョン教育は、1992年に
加藤学園暁秀初等学校(小学校、静岡県沼津市)でスタート。
文部科学省によると2014年4月現在、小学校では10校が実施。
公立では、沖縄県名護市立小中一貫教育校・緑風学園が
12年4月から一部教科で取り入れている。
来春には、株式会社立のフェリーチェ玉村国際小(群馬県玉村町)などが開校予定。
ホライゾン学園仙台小(仙台市)が16年4月の開校準備を進めている。
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