受け忘れ防げ 子供の予防接種、自治体が日程管理 時期・回数…「覚えきれない」の声受け

日本経済新聞
------------------------------------------------------------------------------------------------
 子供の予防接種の「受け忘れ」を防ごうと、自治体などが
保護者向けにスケジュール管理などのサービスを始めている。
子供の予防接種は時期や回数が細かく決まっている。
スケジュールは個々で把握しなければならず、
集団接種が中心だった昔より負担は増している。
「複雑で覚えきれない」。こんな声にこたえ、子供の健康管理を支援するのが狙いだ。

 東京都西東京市が7月に導入したのは「ワクチンマネージャー」。
予防接種のスケジュールを管理するシステムだ。

 専用サイトにメールアドレスや子供の生年月日を登録すると、
受けるべき予防接種と時期が確認できる。
接種時期が近づくとメールで知らせてくれ、接種後の体調などについての
確認を促すメールも届く。
近くの医療機関を検索する機能もあり、そのまま電話をかけて予約もできる。

 6月に長女を出産した同市在住の主婦、平山春香さん(26)は8月に登録した。
「初めての子供で受け忘れなどが心配だったが、
これまでは必要な予防接種を順調にこなしている」と胸をなで下ろす。
10月末時点で登録している子供の数は1千人強で、
「着実に増えている」(同市市民部健康課の藤澤悠史主事)。

■10種類以上対象

 乳幼児向けの予防接種は多岐にわたる。
2歳までに受けるのはヒブ、肺炎球菌、BCGなど公的負担のある定期接種のほか、
B型肝炎やおたふくかぜなど原則自己負担の任意接種も含め10種類以上。
今年10月には水痘(水ぼうそう)が定期接種になった。

 働く母親の増加などで日程を決めた集団接種は減り、
現在は「保護者の自己責任で医療機関で接種してもらうのが原則」(関東の自治体担当者)。
多くの自治体は予防接種の説明や予診票の入った冊子を
新生児のいる家庭に郵送して注意喚起しているが、受け忘れも起きやすい。

 西東京市が導入したワクチンマネージャーと同じシステムは、
神奈川県大和市や栃木県栃木市など14自治体も採用している。
大和市の担当者は導入理由を「生後2カ月から受ける予防接種の日程作成について
保護者からの質問が多かったため」と説明。
開発した医療関連ベンチャーのミラボ(東京・千代田)は
「最近自治体からの問い合わせが増えている」(谷川一也統括本部長)という。

■医療機関も対策

 医療機関側の取り組みも進む。
松江市にある診療所「ぽよぽよクリニック」は、
スタッフが保護者の相談を受けながら予防接種の計画を作成する。
次回の接種日を明確にして、接種漏れを防ぐのが狙いだ。

 医薬品卸大手のアルフレッサは
医療機関向けに乳幼児の予防接種の予約システムを販売する。
サイトで保護者がスケジュールを管理、システムを導入した病院や
診療所にサイト経由で接種を予約する仕組み。保護者の利用は無料だ。

 医療機関側はあらかじめ接種予定が把握できるため、
温度や使用期限の管理が難しいワクチンの扱いが容易になるという利点がある。
「予防接種を実施する医療機関を広げることもできる」とアルフレッサの担当者は話す。

 ドコモ・ヘルスケア(東京・渋谷)は11年から、
専用アプリ「予防接種スケジューラー」を無料配信している。
子供向けの予防接種を推進する
NPO法人「VPDを知って、子どもを守ろうの会」(東京・中央)が作成した
予防接種のスケジュールを基にした。
子供に必要な予防接種の種類や接種の大まかな時期が分かるため、
医療機関で接種する際の目安になる。

 同会の藤岡雅司副理事長は
「予防接種は信頼できるかかりつけの小児科医との相談も欠かせない」と話し、
医師とのコミュニケーションの重要性を指摘する。


◇            ◇

■感染症減る一方で… 副作用に慎重な対応を

 国は戦後、日本脳炎やポリオなどの感染症を防ぐための予防接種を推進してきたが、
感染症患者が減少する一方、副反応による健康被害に注目が集まり始めた。

 1994年に改正された予防接種法は、これまでワクチンを受けないと
罰則のあった予防接種について「努力義務」に変更した。
予防接種に積極的な欧米に比べ、
接種ワクチンが少ない「ワクチン・ギャップ」も生じている。

 流れが変わったのが、2009年の新型インフルエンザの世界的流行だ。
国内でも予防接種の重要性が再認識され、
公的負担のある定期接種のワクチンに、
ヒブや小児用肺炎球菌、水痘(水ぼうそう)が加えられた。

 一方で同時に定期接種になった子宮頸がんワクチンでは、
原因不明の痛みなどが生じる問題も起きている。
依然として安全性に配慮した慎重な対応が求められている。
------------------------------------------------------------------------------------------------