2016/04/22

保育園は迷惑か 反対運動に元防衛庁長官、スリーエフ社長の名も

保育園新設に“反対”する理由は…(※イメージ)
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“全国ワースト1”の待機児童数1182人(2015年4月1日時点)を抱える東京都世田谷区。市川市と同様に、区内2カ所で認可保育園新設をめぐる“反対運動”が起こった。取材をすると、なんと自民党の元閣僚や有名企業の社長の名前も出てきた。

 世田谷区では、保育園の総定員数を増やしているが、いったいどうなっているのか。本誌は、反対運動が起きている新設予定地へと向かった。

 1カ所目は、東急東横線田園調布駅から徒歩15分ほど、閑静な住宅街だった。現在は更地だが、定員約60人の認可保育園が、17年4月の開園を目指している。車や人通りも少なく、落ち着いた雰囲気。ところが、予定地の近隣十数軒の塀には、<開設反対!!住環境の破壊!><危ない三叉路、坂道、一方通行、ここは保育園には向いていません>。黄色の目立つ横断幕が今年2月下旬から掲げられていた。

 地域住民によると、昨年6月ごろから住民対象の説明会が開催され、住民から「地価の下落」「交通量増加による危険性」「騒音問題」などを理由に、反対の声が上がった。初回説明会には、自民党の大野功統(よしのり)元防衛庁長官(80)の姿もあったという。

「大野先生は『この土地に新設する妥当性の説明が必要』と冷静に意見を述べられている時もありましたが、ものすごい剣幕で反対でした。周囲からは『先生、先生』とおだてられていた。住民と役所のかけ橋になるなど“公人”としてのふるまいをしてほしかった」(50代の区民)

 区は今後、民間の事業者選定をする予定だが、反対の署名をした住民は言う。

「保育園の重要性はわかりますが、高齢者世帯が多いこの地域で、勢いよく走る自転車がたくさん通るのは怖い。地域のコンセンサスがないままに話が進んでいるので、できれば静かに暮らしていきたいです」


 2カ所目は、田園調布駅から徒歩10分ほど。環状8号線から細い路地を入ったところにある高級住宅街だ。もともと定員161人と大規模な認可保育園が今月開園予定だった。反対運動をする周辺住民との話し合いで、定員を145人に変更。紆余曲折を経て来年4月に開園する方向だ。

 地域住民によると、昨年春ごろから説明会が開かれ、「周辺道路は道幅が狭く、見通しがきかない坂道で通園には危険。不適切な立地だ」「子供の送迎時の事故の危険性で住環境が一変する」など、反対の声で紛糾。昨年5月に、コンビニエンスストア・スリーエフの中居勝利社長が世話人となり、<保育園整備計画(仮称)反対表明文~署名にご協力のお願い~>と書かれた紙が配布された。

「建設ありきで事業者が話を進めていたので、私たちも戸惑いました。ただ、有名企業の社長を務める中居さんが説明会の中で『(この地域に)待機児童なんていない』などと発言したんです。周辺には認可保育園に入れず、やむを得ず月13万の認可外保育園に通わせている親もいるのに……。発言にすごい迫力があって怖く、反論できなかった」(世田谷区の女性)

 数回開かれた説明会では、「この周辺は保育園が少なく、子供の預け先が見つからないと、仕事をクビになってしまう。認可保育園をつくって」と涙ながらに訴えた母親もいたという。保育園探しに大変な思いをした30代の区民はこう語る。

「保育園探しに苦労した経験から、涙を流す参加者もいました。私も臨月や産後1カ月で、保育園探しに翻弄(ほんろう)されて非常に大変だった。少子化と言われながら、そこまでしても認可に入れないことが問題。働き方や会社の制度が変わってほしい」

 近隣住民とともに保育園新設の問題に“反対”していたという大野元防衛庁長官と、中居社長。真意を伺おうと、直撃を試み、手紙でも尋ねた。大野氏から回答はなかったが、中居社長が締め切り直前に取材に応じた。


「当初は敷地面積の割に161人という大規模な保育園の計画だったので、現行計画を強行することに反対しました。保育園の設立そのものに反対だったわけではありません。事業者の説明に問題があって、近隣の心配が大きくなってしまった。良い保育園になればと思う」

“保育園設置に反対ではない”と繰り返すが、「待機児童なんていない」との発言については、「区のデータで、待機児童数が一番少ないエリアという趣旨での発言だった」と釈明した。世田谷区で1歳の子供を持つ住民はこう話す。

「保育園探しをする私たちにとって、開設に向けて前進することが一番うれしい。説明会への賛成派の出席率が低く、少数と見なされることもありますが、日々の自分の生活に手いっぱいで夜に子供を置いて参加することも簡単ではない。意見を述べたくても、参加する余裕さえない人がいるのも実情なんです」

 賛否が分かれる保育園新設問題だが、甲南大学の前田正子教授(社会保障論)はこう分析する。

「世代間や地域の生活環境により、価値観は大きく異なり、反対意見は必ず出ます。だからといって理解なしに開設しても、子供に敵意が向いて、危害が及ぶ可能性もある。住民が子供たちと交流するなど、保育園が地域に溶け込んでいく施策が必要です」

 一方、地方自治に詳しい中央大学の高橋亮平特任准教授は「保育園新設に反対が悪い、賛成がいいという単純な話ではない」と言う。

「保育ニーズが拡大し、少子化なのに待機児童問題は悪化しています。ドイツでは子供の声を騒音から除外し、訴訟などが起こらないようにしました。東京都も条例改正しましたが、保育園を増やすだけでなく、少子化対策を進めるための全体的な環境整備が行政や政治にも求められます」(高橋准教授)

 説明会では、この問題の難しさを象徴する発言があったという。

「保活の苦労が語られると、高齢のご婦人が全く悪気のない感じで、『保育園に入れないのなら、幼稚園に通えばいいんじゃない』と発言。保育園と幼稚園の区別もつかないことに、戸惑いました」(区民の女性)

 待機児童問題は、保育園の単純な増設などという小手先の対処だけでは解決しないということだ。今こそ社会全体で打開策を考えることが必要ではないか。

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