広がる保育送迎事業 自治体が駅で預かり各園へ 

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東京新聞
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通勤途中の駅で子どもを預けると、自治体が保育所に送迎する事業が全国に広がっている。保育所につきものの送り迎えの手間を減らし、「子育てに優しい自治体」とアピールするのが狙いで、小さな子のいる家族の転入が増えた自治体もある。ただ、子どもが長時間過ごすことがあるにもかかわらず、保育士の人数などの基準はなく、安全性を心配する声も出ている。 (寺本康弘)
 東京都心から電車で約三十分。千葉県流山市の「流山おおたかの森駅」に接続するビルの一室に、市が設置した送迎保育ステーションがある。約九十平方メートルのフローリングの部屋で、子どもたちがおもちゃのブロックを組み立てたり、絵本を読んだりして過ごす。
 「ママー」。三月の平日の午後六時前、三歳の男の子が、迎えに来た母親(42)の元に駆け寄った。都内の専門商社に勤務する母親は、午後五時に仕事を終え、子どもを迎えた後に、近隣駅近くの自宅に帰る。
 ステーションを利用する前は、車で片道十分の保育所まで送迎しており、特に朝は慌ただしかった。夫は遠方に単身赴任中で頼れないため、「時間に余裕ができ、本当に助かっています」と喜ぶ。
 市が二〇〇七年に事業を開始した当時、駅から遠い保育所などの定員に空きがあったため事業を始めた。利用者は年々増え、現在はステーションが二カ所に計四室あり、百二十人が利用登録している。
 ステーションの運営は、市内の社会福祉法人に委託。保護者は午前八時までにステーションに子どもを預けると、法人の保育士や幼稚園教諭らが同乗して七台のバスで市内の二十六園に送り届ける。帰りは、子どもは午後五時までにはステーションに戻り、保護者の迎えは同九時まで。対象は一歳児以上で、ゼロ歳児は不可。利用料は一日百円で、一カ月二千円と格安だ。市は本年度予算に、事業委託費として七千六百万円を計上している。
 ステーションで長い時間を過ごす子どももいるため、市は施設運用に関して、保育所の保育士の人数や、子ども一人当たりの面積を定めた最低基準を準用。実際に通っている保育所の保育士とのつながりが希薄化するのを避けるため、週に一回は保護者が保育所に迎えに行くのが規則だ。
 保護者からは「きょうだいが別々の園に通っているので、ステーションに送るだけで済むのはありがたい」「通勤時間に余裕ができ、フルタイムで働ける」と好評だ。市保育課の宮沢敏幸係長は「市は保育に力を入れており、イメージアップにつながっている」と話す。
 厚生労働省によると、送迎保育ステーション事業は一四年度時点で全国十八自治体で行われている。名古屋市近郊の愛知県岩倉市は今年四月から事業を始めた。駅前のステーションを十一人が利用。ほとんどが朝だけの利用で、帰りは保護者が保育所に迎えに行っている。
 ただ、保育所の事故は絶えず、昨年は全国で子ども十四人が死亡した。国は「一時的な預かりの場であり、保育所という位置づけではない。子どもの安全確保を自治体に求めている」としており、保育士の人数などの基準はないまま。
 ステーションが今後増える可能性があり、月刊誌「保育情報」を編集する保育研究所(東京都新宿区)の逆井(さかさい)直紀常務理事は「小さい子も使うのに、送迎や施設の基準がないのは問題だ」と安全性に懸念を示す。
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