38万フォロワー「てぃ先生」に聞く保育士の待遇「質高めれば給料も」

美濃太田駅を出発する観光列車「ながら」を見送る地元の保育園児=2016年4月27日、岐阜県美濃加茂市

withnews(ウィズニュース)
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保育園児のかわいらしい言動をツイートする「てぃ先生」を知っていますか? アラサーの現役保育士として主にネットで発言し、ツイートをまとめた本もベストセラーとなっています。保育園をめぐっては、匿名ブログによる待機児童問題への訴えが国会でも議論され注目されました。背景にある保育士の待遇について「てぃ先生」は、保育士もスキルアップが必要だと言います。38万フォロワーを誇るカリスマが、子育てのすばらしさをどう伝えようとしているのか、聞きました。(朝日新聞東京本社文化くらし報道部記者・坂井浩和)

「給料、高いほうがうれしいですが…」

――「保育園ブログ」は日本中で注目を集めました。保育士の待遇改善を訴える声もありますが、どう思いますか。

 そうですね……、それは給料が高いほうがうれしいです。ただ一方で、現段階では保育士の価値ってそのくらいだと思われてるんだなとも感じています。改善するには、例えば同じ国家資格の医師や看護師のようにもっと深く専門知識をつけて保育士がスキルアップすることも必要じゃないでしょうか。

 保育そのものの質を高めれば、おのずと保育士の価値も上がって自然と給料があがると思っています。若い保育士やこれから保育士になる人が頑張れば、さらに次世代の待遇改善につながっていくのでは。
「保育園落ちた日本死ね!!!」と題した書き込みが話題になったブログ
「保育園落ちた日本死ね!!!」と題した書き込みが話題になったブログ

「『子どもってこんなに面白い』と伝えたい」

――ツイッターを始めたのは2012年。きっかけは何だったんですか?

 子育てや保育について「つらくて大変」「保育士の給料が低い」といったネガティブな話題ばかりメディアで報じられていて、子どもってこんなに面白くて、保育もこんなに楽しいということも伝えたいと思ったんです。

 そういうポジティブな話題だけを発信する人やコンテンツがあってもいいと思い、園に相談しました。最初は地方紙などに書くのがいいかなと思ったんですけど読む人が限られてしまうので、当時流行り始めていたツイッターを使うことにしました。

 何回かつぶやいているうちにある書き込みがリツイートされて、それまで十数人だったフォロワーが一晩で3千人くらいになって広がっていきました。
「てぃ先生」のアカウント。子どもとのちょっとしたエピソードが人気を呼んでいる
「てぃ先生」のアカウント。子どもとのちょっとしたエピソードが人気を呼んでいる
出典:@_happyboy

「長年の人類の悩みがすとん」

――ツイッターに登場する子どもたち、面白いですね。

 「子どもがこんなこと本当に言うの?」ってよく聞かれます。子育て経験のある方ならご存じと思いますが、僕が紹介する3歳から5歳くらいまでの子どもって、大人が驚くようなことを本当に話すんです。

 たとえば5歳の女の子に「せんせい、どうしたらおとなになれるの?」と聞かれて答えに困っていたら、同じ5歳の男の子に「『子どもになりたい』とおもったらじゃない?」と言われて、そうだなあと。長年の人類の悩みがすとんと腑に落ちる感じというか(笑)。
美濃太田駅を出発する観光列車「ながら」を見送る地元の保育園児=2016年4月27日、岐阜県美濃加茂市
美濃太田駅を出発する観光列車「ながら」を見送る地元の保育園児=2016年4月27日、岐阜県美濃加茂市
出典: 朝日新聞

「子どもが早くほしくなりました」

――ツイートをまとめた書籍は12万部を突破。中高生など若い世代に人気の動画投稿サイト「ツイキャス」でも保育の楽しさなどを発信し、多くの人が聞いています。

 若い世代の人たちから「子どもってかわいいですね」とか「子どもが早くほしくなりました」という反応があるのが率直にうれしいです。ネットだと「子どもが嫌い」「子どもかわいくない」という声も見かけるので。

 いまは子どもを産まないことを選ぶ家庭もあります。金銭その他のことは何とも言えませんが、「子育てが大変」と思ってそうしているのであれば、本当にもったいないと思うんです。子どもってとても面白くてかわいらしいですから。
千葉ニュータウン中央駅前の子育てルーム。転入してきた母親同士の交流の場になっている=2016年5月13日
千葉ニュータウン中央駅前の子育てルーム。転入してきた母親同士の交流の場になっている=2016年5月13日
出典: 朝日新聞

「別の意味でのセンセイになったね」

――発信する際、気をつけていることは?

 掲載にあたっては、すべて子どもの保護者の方に許可をとっています。保育士には守秘義務がありますので。名前は出ないにしろ、SNSに載せることに抵抗がないかどうかもチェックしなければいけません。僕が本名や勤務先を非公表としているのも、園や保護者の方々、何よりも子どもたちに迷惑がかかることを防ぐためです。

 ただ保護者の方からは特に反対意見はありませんでした。子どもの魅力を伝えたいという趣旨を理解してもらえたんだと思います。本を出版したときは「作家サマだね、別の意味でのセンセイになったね」なんて茶化されたりもしました。
SNS発信の際は細心の注意を払っているが、子どもの魅力を伝えたいという趣旨は多くの保護者に理解されているという ※画像と記事の内容は直接関係ありません
SNS発信の際は細心の注意を払っているが、子どもの魅力を伝えたいという趣旨は多くの保護者に理解されているという ※画像と記事の内容は直接関係ありません

「もっと失敗をさせてあげて」

――そもそも保育士になろうと思ったきっかけは何だったんでしょう。

 父がサラリーマンで、子どもの頃から「サラリーマンってつまらなそう」と感じていました。ですから専門職につこうと、漠然と思っていたんです。子どもが好きだったので、高校生のころから保育士という選択肢が頭に浮かんでいました。

 当時、高校へ電車通学をしていたとき、向かい側の席に座っていた3歳くらいの女の子と目が合って、その子が僕のほうを見てニコッと笑いかけてきたんです。そうしたささいなことも、保育士になるための後押しになった気がします。

――ブログでは保育士志望の学生や保護者に向けて子どもと向き合う際のコツなども紹介しています。保育や子育てで大切だと思うことは何ですか。

 子どもにもっと失敗をさせてあげてほしいなと思います。いまは大人が正解のルートをつくってしまいがち。「失敗するだろうな」ということをあえてさせてあげることが大事じゃないでしょうか。高いところが危ないというのも、実際に登ってみないとわからない。いろんな経験をさせてあげてほしいと思います。
都内であった保育士就職セミナーの様子=2016年4月23日、東京都渋谷区
都内であった保育士就職セミナーの様子=2016年4月23日、東京都渋谷区
出典: 朝日新聞

「指輪、先生はしてないね」グサッ…


――ご自身の将来は?
 子どもとかかわることが大好きなので、できるだけ現場にいたいですね。でも周りを見渡すとおじさんの先生ってなかなかいなくて。だから保育士以外で子どもとかかわる選択肢も考えています。

 あと僕はまだ家庭を持っていないけれど、子どもが生まれた場合、今のこれだけのお給料しかありませんというと生活は厳しいかなとも思う。結婚の予定はまったくないです。未婚とか、彼女いないとか、4,5、6歳の女の子の関心にドンピシャなんですよ。「パパとママは指輪してるけど、先生はしてないね」とか言われて。グサッときます(笑い)。

     ◇

てぃ先生(てぃ・せんせい) 本名や素顔は非公表。本人によれば、アラサーで未婚、東京都内の保育園に勤めている。2012年にツイッター(@_Happyboy)を開始し、フォロワー数は38万を超える。ツイートをまとめた『ほぉ…、ここがちきゅうのほいくえんか』(KKベストセラーズ)は12万部にのぼる。保育の楽しさや子育てのコツを伝えるツイキャス(_Happyboy)やブログ(http://ameblo.jp/tsenseidayo/)も人気。
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