子どもの発想力・自立心の鍛え方(6)「お手伝い」させる~「係」として任せ不便を忍ぶ 三谷宏治 [K.I.T.虎ノ門大学院主任教授] 【第141講】 2016年6月23日


ダイヤモンド・オンライン
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人材育成としての放牧型子育て「ヒマと貧乏とお手伝い」

 ちょうど1年半ほど前、「子どもの発想力・自立心の鍛え方」をテーマに、5講を続けました。(【 】内数字は現時点でのFacebook「いいね!」数)
・(1)「ひらがなマグネット」「紙テープ」「遊びのアポ取り」 【202】
・(2)「ヒマ」をつくる~携帯電話やテレビをどう制限するか 【264】
・(3)「貧乏」にする~ママ友の「かわいそう」攻撃やジジババ軍団とどう戦うか【556】
・ (4)「貧乏」にする(続)~だから3代目でつぶれる?お年玉は使用額の制限を【97】
・(5) 「仲間」をつくる~対等・仲裁しない・マイナーな趣味・信頼感 【75】
 圧倒的に「いいね!」を集めたのが、(3)「貧乏」で、ついで(2)「ヒマ」でした。発想力と自立心向上には、ヒマと貧乏が効くのです。
 今回は私が、子どもたちの共育法として掲げているもう一つの必修科目、「お手伝い」を取り上げます。
 子育てと思うから失敗します。子どもたちに失敗させたくなくて、転ばぬ先の杖を与えまくり、代わりにつきまくって、子どもたちの意欲や判断力を奪います。
子育てではなく人材育成です。子育ては、「子どもの自立と幸せ」に向けた、期間約20年、予算最低2000万円の人材育成プロジェクトなのです。
 子どもたちには「ヒマと貧乏とお手伝い」を与えなくてはいけません。自分で調べさせ、決めさせ、失敗させなくてはいけないのです。

お手伝いは「就職力」に効く。「段取り力」「気配り」「感謝の心」

 数年前、あるITベンチャーでのこと。大学卒の新入社員を10数名募集しました。何段階もの採用面接や各種試験を課して、選りすぐりの人材を採用した、ハズでした。
 ところが数ヵ月後、配属先の管理職たち数名が、「なんであんな奴らを採用したのだ!」人事部に大クレーム。と。その配属された新人たちが、「気が利かない」「段取りが悪い」「口ばかりで動かない」「感謝しない」というのです。要は企業人として、いや、社会人として全く使い物にならん、というわけです。
 たまりかねた人材採用担当者は、その年の新入社員たちを密かにもう一度、調査しました。そして、わかったことがひとつ。それは、


・子どもの頃、家でお手伝いをしていた若者は、使える
・お手伝いを全く、もしくはほとんどやっていなかった若者は、ダメ
 ということでした。
 その後この会社では「子どものときのお手伝い経験」を、最も重要な採用基準の一つにすると決めました。お手伝いをしてこなかった子は、どんな大学であろうが、どんなに筆記や面接の点が高かろうが、絶対雇わない、ということです。
 お手伝いをすることで、子どもたちは段取りよく動くことを覚え、様々なことに気を配り、自ら考えて体を動かすようになります。そして更に大切な、親や回りに感謝する心、が身に付いていくのです。

大切なのは任せること。「係」としてのお手伝い

 では、今の子どもたちに、どんなお手伝いをさせましょうか。
 ベストは「家業手伝い」ですが、なかなか難しいかもしれません。であれば、「家事手伝い」、つまりお母さんとお父さんがやる家の中の仕事=家事を、子どもたちが徹底的に分業するのが、基本です。
・炊事、洗濯、掃除、整理整頓
 もちろん、自分の部屋の片付けや学校に行く準備は当然です。お母さんかお父さんの片方だけが働いている場合も、共働きの場合もあるでしょう。でも根本は同じ。少しずつ、年齢が進むにつれお手伝いの範囲を拡げましょう。
 各々の家事でのコツや、やらせ方の詳しいノウハウは他書にゆずりますが、大切なのは「任せる」ことです。だってこれは自律的に考え動く訓練だから。
 きちんと責任の所在を明らかにするためにも、安易に助けては、いけません。少しくらいダメでも、親が代わりにやってしまうのではなく(それは最終手段)、ガマンしてやらせましょう。
 また責任と同時に権限も、与えなくてはいけません。庭掃除を週に1回やる、と決めたなら、いつやるかは本人に任せる、とか、お金のかかることなら月額の予算を与える、とか。
 これがないと、子どもへの「指示」と「過干渉」というドンツ(やってはいけないこと)の塊になってしまいます。それで育つのは、指示を迅速にこなすロボットだけです。
 お手伝いに関する責任と権限を明確にして、「仕事」として子どもにちゃんと、任せましょう。
 それは、子どもたちの言葉で言うなら「係」です。「いきもの係」さんがちゃんと働かなければ、そのいきものは死んでしまいます。そういった、責任ある立場が「係」なのです。
 子どもが「洗濯もの係」をちゃんとやらなかったら? そしたらもう1日、同じシャツを着るだけです。手出し口出しせず、任せましょう。やらないなら、みんなで困りましょう。不便を、忍ぶのです。

「お手伝いをさせていない」親たちの声

 ここ10年弱、この「人材育成としての子育て」「ヒマと貧乏とお手伝い」をテーマにさまざまな場所で講演をしてきました。幼稚園や保育園、小中学校・高校の保護者会やPTA研修で、もう100回以上やったでしょうか。
 当然(?)、出席者の9割は「お母さん」がたです。「浮世離れした子育てですね」と言われたこともありましたが、「お手伝い」については非常に強い、賛意(と反省)の声をいただいてきたように思います。
 講演後のアンケートで、よくあったのはこんな声です。
・自分が子どもの頃は、いっぱいお手伝いをさせられた
・お手伝いが一番ダイジ、は普通のことだった
 なのに、子どもにはお手伝いを十分にはさせていない、という反省が続きます。
・子どもがかわいそうとやらせてこなかった
・子どもは勉強や部活で忙しくてお手伝いのヒマがない
・やらせようとするとケンカになるからほとんどお手伝いをさせていない
・自分でやった方が早いので……
・お手伝いさせても、下手だからちょっと邪魔者扱いしてきた
 あらまあ……。

親たちの反省と決意。「嫌われようと、やらせる」

 ところが、今の自分を見つめてみると、お手伝いによって培われたものが大きいと気づきます。
・自分が料理好きで上手なのは、子どもの頃から作ってきたからだ。段取りが良くないと、料理は作れない
・仕事が大変でも、なんとかこなせる。これは子どもの頃、お手伝いに始まって、ナニゴトも自分で考えて決めてきたから
 そして、多くの方が、「子どもにもっとお手伝いをさせます!」という決意をもってくださるようです。たとえ子どもに、イヤがられようと
 「私は子どもの頃やらされたお手伝いがイヤで、子どもにはさせないでおこうと、これまでやってきました。でも、私が段取り上手なのは、お手伝いをなんとか短時間で終わらせようと工夫してきたからだと、今、気がつきました。親に感謝したいと思います。今日から息子にも、嫌われてもいいのでやらせます」(小4男子のお母さん)
 みなさん、頑張ってください。応援しています!

お手伝いを遊びにした長女。「洗濯もの屋さんごっこ」

 小5の頃、長女は洗濯ものを畳んで片付ける係でした。
 ある日、山のような洗濯物を一生懸命畳んだのはいいものの、しばらくそのまま放置。母親がしまおうかと声を掛けても、「さわらないで~」と洗濯ものの陰から返事します。
 しばらくたつとニコニコしながらやってきて、「洗濯もの屋さんをやって、全部妹たちにしまわせた!」と。
 彼女は妹2人に(おままごとで)洗濯物を売りつけたのでした。
長女「洗濯もの、いりませんか~」「これは赤いきれいな服で~す」
次女「私に売ってくださ~い」「50円払います」
長女「売りません!」次女「えー」
三女「私は150円で~」長女「売った!」
買った洗濯ものは、すぐにしまうがルールです。次女三女は争って長女から洗濯ものを買い、しまっていきました。
 長女は妹たちを使って、洗濯ものをしまわせ、あっという間に自分のお手伝いを終わらせました。お手伝いは三谷家の子どもの義務、でもありますが、楽しい遊び、でもあったのです。
係としてのお手伝いは、発想力も鍛えます。だってどうやってやるも自由なのですから。
 子どもの発想力・自立心の鍛えるために、「お手伝い」させませしょう。「係」として任せ、やらなければ不便を忍びましょう。子どもたちはそのお手伝いを、きっと楽しい遊びにしたりもするでしょう。
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