2016参院選/2 保育・子育て 意欲維持へ待遇改善を /京都


毎日新聞
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 6月上旬の朝、京都市左京区の朱(あか)い実(み)保育園の職員室。出勤した主任保育士の阿部素子さん(43)のパソコンの上に、毛虫が入ったビニール袋が置かれていた。「虫が大好きな子供たちが、園庭で捕まえて、プレゼントしてくれたんですよ」。もともと虫が大の苦手だったという阿部さんが、笑顔をはじけさせる。
     自然科学を取り入れた保育を実践している園の庭には、市街地に近いのに、夏みかんや柿の木などが生える。1歳児クラスの子供たち6人は起伏のある砂山を駆け回ったり、ダンゴ虫を見つけて「あー」と歓声を上げたり。阿部さんや他の保育士は、他のクラスの子供とも一緒になって泥団子を作り、驚きや喜びに共感する。吉田山に登り、鴨川で魚を追いかける……。園の外でも、そんな風景が日常だという。
     阿部さんはやりがいを感じ、働き続けたいと考えている。ただ一方で、乳幼児の命を預かり、心と体を育てる責任の重さ、体力的なきつさに報酬が見合っていないとも強く思う。若手職員の大半は、月給「20万円の壁」を超えられない。阿部さん自身、保育士を20年勤めて上がった給与は7万円程度。苦楽を共にしてきた職員と「生涯30万円の壁を超えることはないよね」と苦い表情を浮かべる。
     一方で、子育てについて保護者と情報共有するため頻繁に開催する懇談会の準備は、どの保育士も勤務時間外に行う。研修も自費が多い。「いい保育をしたい、保護者と一緒に子育てをしたいという意欲が社会的に評価される仕組みになっていない」と嘆く。こうした悪条件もあってか、保育士の年齢層は結果的に偏ることが多い。朱い実保育園でも50代が抜け、阿部さんは今年4月、40代前半でトップの主任となった。
     待遇の悪さは、保育士不足につながり、更に待機児童を解消できない要因ともなる。なぜ改善できないのか。保育所の人件費を含む費用は、保護者の「利用料」と、税金を原資にした「委託費」が2本柱。委託費は国が定める公定価格で、基準額が決まっているため、それぞれの施設で給与を簡単には上げられない。兼田祐子園長(61)は「保育士たちの待遇改善の願いに応えられないのがつらい」と心情を明かす。今月2日に閣議決定した「ニッポン1億総活躍プラン」には保育士処遇改善が盛り込まれたが、月給2%増などにとどまる。
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     「隕石(いんせき)がね、地球に5回ぶつかって、寒くなって恐竜が死んで、木が石炭になったんやで」。朱い実保育園では恐竜が大好きな男児(4)が阿部さんに懸命に話しかけていた。「へぇー」と目を丸くして聴き入る阿部さん。「次は恐竜の話を取り入れようとか保育の展開につながるんです。素敵な仕事でしょ? だから仲間には働き続けてほしいし、多くの人になってもらいたんです」【野口由紀】
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