News Up 待機児童数“ゼロ”のカラクリとは!?

News Up 待機児童数“ゼロ”のカラクリとは!?

NHK
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「待機児童」の定義を巡り、先週発表された岡山市の対応がさまざまな波紋を呼んでいます。

1年で待機児童が5倍? その背景は

今月25日、岡山市はことし4月1日時点での「待機児童」の数を発表しました。その数は729人。前の年の134人と比べると、5倍以上の増加になります。
その背景にあるのは、市が独自に行った「待機児童」の“定義”の変更でした。
岡山市では、これまで国の定義にのっとって、例えば、自宅から車で30分ほどかかる離れた認可保育園が提案され、それを断った場合は待機児童にカウントしてきませんでした。このため、岡山市ではおととしまで12年連続で「待機児童」が“ゼロ”であると公式に発表してきました。
しかし、25日の記者会見で大森雅夫市長は「これまでの待機児童の基準は市民の実生活やニーズとかけ離れたものだったと言わざるをえない」と述べ、“定義”を見直すことを明らかにしました。新しい独自の“定義”では、「第3希望まで利用調整したが入園できなかった」場合は「待機児童」とするというものです。その結果、「待機児童」の数が大幅に“増える”計算になったのです。
変更に至った経緯について、岡山市就園管理課の担当者は「内部で協議した結果、これまでのカウント方法は“実態にそぐわない”と判断し、今後は『待機児童』の数を全面的に公表し、政策課題として市民の理解を得ながら対応していこうということになった」としています。
「なぜ、あえて数を増やすような定義の解釈に変えた」 国やほかの自治体に波紋が広がりました。岡山市の担当者は「政令指定都市として非常に大きな数字の発表となったので、発表した翌日にすぐ厚生労働省から問い合わせがあり、説明を求められているのです」と困惑気味に話していました。

“ダブルスタンダード”発表も恒例に

岡山市のような独自の“定義”は新しいものなのでしょうか。
答えは“いいえ”です。国の“定義”への解釈は、それぞれの自治体判断に任されているのです。このため最近では“ダブルスタンダード”の発表も一般的になっています。
例えば名古屋市は、国の定義にのっとったことし4月1日時点の「待機児童」の数は“ゼロ”と発表。その一方で、入所申込書に記入した希望する認可保育所に入所できなかった場合はすべて”保留児童”と定義し、その数は585人に上ると公表しています。
また、同様に、横浜市でもことし4月1日時点で「待機児童」の数は7人と発表。その一方で、“保留児童”が3117人に上ることを公表しています。
国の“定義”による「待機児童」の数に加え、「保留児童」といった表現で“潜在的”な「待機児童」の数を公表していることについて、いずれの市も、市民のニーズを把握し、きめ細かく対応するためだと説明しています。
一方、国も“潜在的”な「待機児童」については需要を認め、去年4月の時点で全国で5万9383人に上ると公表しています。
先週のニュースアップでもお伝えしましたが、国の定義にのっとれば数字は“ゼロ”に近づき、一方で、自治体独自の定義では数字は増えるという「待機児童」数のからくり。こうした国と自治体の“ダブルスタンダード”が誤解を招き、さまざまな波紋を呼んでいるのです。

実態を把握しづらい方向に変遷 国の“定義”

ここで改めて、国の定義のうち主なものを整理します。
内容の改訂を伴う変更は、これまでに5回行われています。

【平成11年】希望する認可保育所に入れず、自治体などの補助を受けているものも含め、いわゆる「無認可保育所」に入所している場合は「待機児童」としてカウントする。
【平成13年】希望する認可保育所に入れず、いわゆる「無認可保育所」に入所している場合でも、自治体などの補助を受けている施設の場合は「待機児童」としてカウントしない。
【平成13年(追加)】「遠すぎる」「兄弟で同じ保育所に入れたい」など、私的な理由で自治体が勧める保育所への入所を辞退した場合は「待機児童」としてカウントする。

国は、自治体の補助を受けている「無認可保育所」に入所している場合や、「遠すぎて通えない」などの理由で勧められた施設を断った場合も、「待機児童」として扱わないという定義に途中から変更しています。こうして、範囲を狭められた国の定義にのっとると、自治体によっては「待機児童」が”ゼロ”ということになるのです。
こうした変更について、厚生労働省雇用均等・児童家庭局保育課の担当者は「いわゆる『無認可保育所』でも、自治体が決めた基準に基づき補助がされている保育所は、一定の保育の質が保たれているという判断だと思われる。ただ、当時どのような議論がなされて変更に至ったのかなど、詳しいことは資料の保管期限も過ぎているので分からない」としています。

国の発表数字は“ゼロ”でもいい しかし本気の対応を

今月、政府は「1億総活躍社会」の実現に向けたプランをまとめ、来年度末(H29年度)までに待機児童を“ゼロ”にすることを改めて明記しました。しかし、この“ゼロ”は国の定義によるもので、“潜在的”な「待機児童」の数は含まれていません。
これについて、保育園を巡る問題に詳しい「保育園を考える親の会」の代表普光院亜紀さんは、「『待機児童』ゼロが政治目標になっているので国の定義を変更するのは難しいのかもしれないが、せめて自治体には、子どもの預け先に困っている親の実態やニーズをしっかり把握し、きめ細かい対応をしてほしい」と話しています。
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