<親子にやさしいフィンランドの子育て>(中) すべての子を保育所に


中日新聞
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◆待機ゼロ、行政の義務

 フィンランドの首都、ヘルシンキ市ではここ数年、市内の子育て世帯が急増している。同市によると、昨年は主に近郊から一万八千人の転入超過があり、子ども千百五十五人が新たに市内の保育所に通い始めた。
 これほどの保育需要の急増は、待機児童を生み出したのか。答えは否だ。
 「希望する子ども全員が保育所に通っています。待機児童はいません」。市幼児教育担当専門職のハサリ・アランさんは強調する。
 市は出生率や人口動態予測により、市内で保育を希望する子どもの人数を予測。「十分に余裕を持って、施設を確保しますから」とアランさん。
 ただし、子どもが希望する保育所に通えるとは限らない。保護者は市に申込書を提出する際に、第五希望までを列挙。この第五希望にほぼ入ることができるという。市は遅くとも二カ月以内に、入れる保育所を提示しなければならない。
 それを可能にしているのは、保育所数の多さと、定員に余裕があること。人口六十二万人のヘルシンキ市には市営三百二十八カ所、民営百十四カ所の計四百四十二カ所の保育所がある。定員約二万八千八百人に対し、通う子どもは約二万六千人。まだ二千人以上の余裕がある。
 日本の都市と比べると差は歴然としている。フィンランドに幼稚園はないため単純比較は難しいが、名古屋市がヘルシンキ市と同じ人口だったとすると、ヘルシンキ市の施設数は三・九倍、定員は二・五倍になる。
 フィンランドでは、一九七三年に保育所法が施行され、希望する子ども全員が保育所に通えるようにするため、自治体に対策を義務付けた。このため「一九八〇年代は人口流入が激しく待機児童のリスクがあったが、今はない」(アランさん)。親が働いているかいないかは、入所条件ではないという。
 同国では、法律で三年間の育児休業を取得できる。このため、子どもが小さい間は母親が育休を取って自宅で子育てすることが多い。ヘルシンキ市で保育所(家庭保育を一部含む)に預けられている子どもの割合は▽ゼロ歳児0・2%▽一歳児23%▽二歳児58%▽三歳児78%▽四歳児87%▽五歳児88%-となっている。保育所がしっかり整備され、残業がほとんどない働き方の違いもあり、三年間の育休を取った後は職場復帰し、フルタイムで働くのが普通だという。
 アランさんは「人生の最初の数年間は発達や成長に最も重要な時期。子どもたちが遊ぶための十分な時間とスペース、施設を持てるようにするのが行政の義務です」としている。
 (寺本康弘、写真も)

◆日本の「隠れ待機児童」約6万人

 日本では、保育所に通う子どもが増加している。昨年四月には二百三十三万人で、十年前に比べ三十四万人増えた。行政は新設を急いでいるが、全く追いつかない状態。保育所に入れない待機児童数は昨年四月時点で二万三千人に達した。
 希望した保育所に入れずあきらめたり、認可外に入ったりしている「隠れ待機児童」も約六万人。背景には、保育需要が急増している半面、保育士が不足していて設置場所の確保も難しく、新設が進まないことがある。
 日本で保育所に通う子どもの割合は▽ゼロ歳児13%▽一、二歳児38%▽三~五歳児46%(ほかに幼稚園44%など)。低年齢児がヘルシンキ市より多いのは、育休が法律で一年間しか保障されていない影響とみられる。長時間労働のため、子育てとの両立をあきらめて、フルタイムの仕事をやめていく女性も多い。結果的に幼稚園に通う子どもが半数に上っている。

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