高熱でも休めない“ワンオペ”育児ママの過酷な毎日


毎日新聞
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2014年ごろ、某牛丼チェーン店で従業員が休憩も取らず、長時間1人で清掃・調理・仕入れなどすべての業務をこなす「ワンオペ(ワンオペレーション=1人作業)」が社会問題になりました。
 こうしたブラック企業の「ワンオペ」労働が母親たちの家庭内労働とそっくりなことから、ネットを中心に母親たちの間では「ワンオペ育児」という言葉が使われています。父親が残業で帰りが遅い家庭、ひとり親家庭など、日本には専業主婦、働く母親を問わず、ワンオペ育児をする母親であふれています。
 最近では、共働きで夫が単身赴任なので母親がワンオペ育児、というケースも増えています。総務省が13年に公表した「平成24年就業構造基本調査」によると、夫と離れて単身で暮らし、働く女性は、12年には19万4400人いました。02年の11万8500人から相当の増加です。この中には女性の単身赴任者も含まれるとみられます。



夫が単身赴任で育児と仕事が妻の背中に

 東京で公務員として働く太田麻美さん(仮名、30代女性)の場合、息子を出産したとき、会社員の夫・直樹さん(仮名)は関西で勤務していました。育児休業中は同居しましたが、復帰してからは過酷なワンオペ育児が始まりました。実家は遠方にあり、祖父母には頼れません。信頼できそうな育児援助サービスの情報を集め、手続きをする時間も十分に取れません。
 麻美さんは毎朝5時ごろ、寝不足状態で起きます。1歳の息子が寝ている間に洗顔や仕事の準備を済ませます。息子が目を覚ましたら、自分のことはすべて後回しに。朝食を作って食べさせ、オムツを替えて体温を測り、着替えさせます。
 息子が何かを誤飲したり、落下したりしないよう、常に視界に入れながら、なんとか化粧や身支度もします。その間トイレにすら行けません。
 麻美さんは、仕事の段取りを考えつつ書類をそろえ、同時に息子の着替えやオムツ、連絡帳を登園バッグに入れて、ベビーカーを押して家を出ます。必要な持ち物が多すぎて、忘れ物に気づき、遅刻ぎりぎりで引き返すことも日常茶飯事です。
 保育園に着いたら、猛スピードで着替えをセットし、泣く息子をなだめ、駅まで汗だくでダッシュ。通勤ラッシュにもまれ、会社に向かいます。会社に着くと同僚が「服、裏表ですよ」と一言。ワンオペ育児を始めてから、髪も服装もボロボロです。




40度の高熱でも家事育児は休めない

 麻美さんは午後6時に会社を出て、急いで保育園に向かいます。仕事ですでにヘトヘトですが、テレビに子守をさせつつ夕食を作り、風呂に入れて寝かしつけ、洗濯、翌日の仕事の準備を深夜までこなします。
 子どもは保育園の集団生活で頻繁に病気をもらってきます。麻美さんが息子から風邪をうつされ、40度の高熱が出ても、横になることはできません。もうろうとしながらご飯を食べさせ、寝かしつけます。
 息子が夜中に目を覚まし、夕方食べさせたおかゆを布団の上で吐き出しました。両手でとっさに受け止めたものの、大泣きする息子から離れて始末しに行くこともできず、そのまま吐いたものにまみれ、麻美さんも一緒に泣きました。誰も助けてくれないワンオペ育児は、孤独です。

会社は「働く妻」まで配慮してくれるか

 職場では男性社員とほぼ同じ業務をこなしています。その男性社員は専業主婦の妻の全面サポートを受けていますが、麻美さんは1人。過労のため、仕事のミスが続きました。自分が責任者の会議を忘れ、すっぽかして怒られたこともあります。周囲から不評を買い、精神的にも体力的にも限界を迎えています。
 そこで夫の直樹さんは、上司に妻の状況を伝え、同居できる距離の支店や部署への異動を希望しました。ああそれなのに、夫の次の転勤先は東海地方。前より近くなりましたが、同居するには遠すぎます。
 直樹さんは上司からこう言われたそうです。
 「首都圏のどの部署も、子どもを育てながら働く女性でいっぱい。異動の順番を待っている女性社員も多い。働く妻を持つ男性社員を優先的に異動させるわけにはいかない。家族の問題だから自分たちで解決してほしい」



ワンオペ育児を増やさない新しい働き方を

 内閣府は8月25日、17年度の税制改正要望で、相互に遠方に居住する男女が結婚する場合、(1)結婚に伴う転居費用(2)仕事の都合で結婚後も同居できない場合の旅費を、特定支出控除の対象とする−−ことを財務省などに求める方針を明らかにしました。
 少子化対策の一環で、結婚後、引き続き別居となる場合に、お互いの住まいを行き来する交通費を税控除し、結婚を促進するのが狙いです。
 税軽減はないよりはあった方がいいでしょう。しかし根本的には、中核社員に無限定に転勤をさせる今の働き方が夫の単身赴任を促し、結果的にワンオペ育児を増やしています。仕事を辞めて夫の赴任について行ったり、2人目の子どもをあきらめたりする女性も少なくありません。
 つまり、今の働かせ方のままでは、子どもを産むのも女性が活躍するのもなかなかに難しい、ということです。
 せめて子どもが幼いうちは、男性も女性も転勤しなくてもよい働き方を選びたいもの。そして、一時的に転勤や残業をしない働き方を選択した人がマミー(ダディー)トラックで塩漬けにされず、管理職や役員への昇進も可能な新しい仕組みに変えていくべきです。そのような「働き方改革」であってほしいと思います。
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