【知恵の経営】障害児が日本一多い幼稚園 (1/2ページ)


SANKEI BIZ様
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小田急線柿生駅からタクシーで10分ほど走った川崎市麻生区の住宅街の一角に、柿の実学園が経営する「柿の実幼稚園」がある。敷地面積は広大で約1万平方メートル、園児はなんと1500人、先生も200人と、全国最大規模である。
 規模もさることながらが、特筆すべきは、多様な障害のある園児がなんと約200人も在園している点だ。ほかにもさまざまな理由で障害者手帳を持たない障害児が約100人と、合計では300人もいる。つまり、園児の20%、5人に1人は障害児である。障害児の在園している幼稚園は少なからずあるが、柿の実幼稚園こそ、間違いなく日本一の幼稚園である。
 障害児も軽度や中度の障害のある園児たちもいるが、中には毎日、頻繁に吸引が必要な園児や全盲、自閉症、さらには横たわったまま移動せざるを得ない園児も多数いる。いやはや素晴らしい幼稚園である。
 柿の実幼稚園の開園は、今から55年前の1962年、住職だった現園長の義理の父が、地域の要望を受け現在地でスタートした。開園時の幼稚園の規模は、約200人定員と普通の規模で、障害児も現在のように多くいる園ではなかった。
 しかし、開園以来の熱心な保育と良い環境が、保護者や園児の支持を集め、うわさを聞きつけた全国からの入園希望が相次ぎ、規模を拡大せざるを得なくなり現在にいたっている。
 障害児の入園は「みんなちがって、みんないい…」というスローガンの下、開園当初から自然に行っていたが、今日のように多数の園児を預かるようになったのは、現園長の小島澄人氏の考えが大きい。
もともと小島園長は神父を志したほどやさしい人だったが、入園希望者の中でどこの幼稚園でも入園を認められない重度の障害児も少なからずおり、「差別はおかしい…、正しくない…」と周囲の心配もあったが積極的に受け入れに動いた。
 先日、柿の実学園の小島哲史理事長から心温まるエピソードを聞くことができた。その一つは、大阪市に住む、障害児の母親の話だった。ある年の入園相談会の日、憔悴(しょうすい)しきった表情の一人の母親が、重度の障害のあるわが子の入園相談に来たときの話だ。母親が言うには「この園に来るまで29カ所を回ったが、すべて断られ、30カ所目です。どうか入園を許可してください…」と、頭を地べたになすりつけるように嘆願をした。
 小島園長はその話にじっと耳を傾け、「お母さん、わかりました。心配いりません…、この幼稚園で引き受けますよ…。大変でしたね…」と手を取りながら、ねぎらいの言葉をかけた。「その瞬間、母親の目から大粒の涙があふれ出ていました…」と話してくれた。
 その後、園児と両親は入園を機に大阪から川崎に居を移したそうだ。こうした正しい・心優しい幼稚園が全国に多数誕生すれば、わが国の未来は明るい。
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