“若者使い捨て”24歳保育士の明るくない未来


毎日新聞様
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 保育所拡充と高齢者介護の充実が叫ばれるなか、今年7月の参院選では保育士や介護士の待遇引き上げがテーマの一つになりました。保育士給与については自民党が月6000円引き上げと経験者の4万円上積み▽民進党と社民党は月5万円の引き上げ▽共産党は5万円引き上げに加えて年1万円を5年間増額--を打ち出し、待遇改善を競いました。
 二つの業界はそれほど構造的に低賃金重労働です。意欲を持って就職した若者が夢を持ちにくく、長く働けない職場になっています。
 私たちのNPOを訪ねて来る保育士さんの相談の多くは、低賃金についてです。何年も低い賃金で働き、昇給の見込みもなく、「できることなら結婚して早く辞めたい」と考えている人がほとんどです。
月給13万円の仕事のやりがいとは
保育所参入企業の人件費割合は50%程度
27歳女性は「7年勤めて昇給・昇進・展望なし」
 ある日、北関東の認可保育所で働く24歳の女性が相談に来ました。「ずっと働きたいけど、このお給料でいつまでも働くわけにはいかず、どこかで転職しないと、何も身に着かないまま年をとっていきそうで……」
 この保育所は、学習塾経営や家庭教師派遣を本業とする会社が経営する「株式会社立」。0歳児から5歳児まで計約100人を預かっています。女性の賃金は週5日8時間労働で基本給額面13万円。残業が多い月で16万~17万円です。
 「結婚もしたいですが、相手もそんなにお給料をもらっていないので、私がすぐ辞めるのは難しい。お給料を上げてもらうにはどう言えばいいんでしょうか」
 専門学校で教育を受け、夢を持ってこの仕事に就いたそうです。しかし4年たっても給料が上がらず、やりがいを持って続けていけるのかどうか分からなくなり、話を聞いてほしくて訪ねてきました。低賃金の悩みと将来への不安は切実でした。
 実は今、株式会社が運営する保育園の賃金水準が、公立や社会福祉法人運営の保育所より低いことが問題になっています。
 認可保育所には自治体運営の公立と、社会福祉法人や株式会社、学校法人、NPOなどが運営する私立があります。
 設備や1人あたり面積などの一定基準を満たした認可保育所に対しては、国や自治体が建設費や運営費に対して補助金を出します。保育士が十分な報酬を得られるよう、人件費割合をおおむね70%と想定しています。
 ところが、株式会社が運営する保育所の人件費割合はおおむね50%程度。人件費充当を想定して交付した補助金が、保育士や職員に十分分配されていない実態が目立っているのです。
 保育所を増やそうと、株式会社の保育参入が2000年に解禁されました。そして、誰もが恐れていた人件費ダンピングが顕著になりました。人件費を抑えるほどもうかります。やり過ぎると保育士が集まらないし、続かないので、ぎりぎりの線でバランス良く“搾取”します。
 なかには人件費割合を高く維持している会社や法人もありますが、厚生労働省の調査によると、保育士の月額平均賃金は21万3000円。全職種平均30万4000円と比べて10万円近く低い水準です(2015年賃金構造基本統計調査から)。
 若い保育士は数年後には辞め、次々と新しい保育士が入るという、ブラック企業と同じ構造が生まれているのです。
 保育士の待遇改善には、国費投入を増やし、補助金使途を人件費に振り向けさせる仕組みが必要ですが、その手当ては十分ではありません。

 ここ数年、保育士や介護職員から風俗業界に入る人の相談もとても増えています。賃金が低いため、仕事を辞めて、あるいは続けながら週に数回、風俗の仕事をするケースです。
 保育士を低賃金で働かせることの罪の一つに、セカンドキャリアを形成しにくいことが挙げられます。貯蓄できないため、転身のための教育や職業訓練を受けにくいからです。これは、平均賃金が全業種平均より月10万円低いとされる介護職員も同じです。
 風俗業で働くことが罪なのではありません。少子化対策、待機児童対策が重要とされながら、その現場で働く若者の賃金が低く抑えられ、本業で食べていけないシステムに問題があるのです。保育でキャリアを始めると、そのあとつぶしがきかない仕組みも変えなければなりません。
 風俗業で働くある保育士の女性(27)は、風俗の仕事を辞めたいが、辞めたら食べていけないといって相談に来ました。保育士の給与は残業代込みで月約18万円。週2回風俗で働いて副収入を得ています。彼女はこう言いました。
 「7年勤めて昇進も昇給もなし。ついでに展望もない。副業の風俗でも競争相手が増えて、しかも27歳なのでお客さんがつかなくなってきた。風俗でも食べられなくなりつつある」
 次回も続きます。
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