日本の子どもの6人に1人は貧困家庭。どうして助けを呼ぶ声は届かないのか?


ダ・ヴィンチニュース様
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 日本人が「貧困」という言葉を聞くと、発展途上国でその日の食事にも困っている人々を想像しがちではないだろうか。しかし、貧困とはもっと身近に差し迫った問題としてこの国に存在している。2015年の調査によると、日本の子どもの貧困率は16.3パーセントで過去最悪。ひとり親など大人が一人の家庭に限定すると54.6パーセントになり、先進国でも最悪の部類に入る。紛れもない事実として、日本では子どもの6人に1人が貧困家庭で暮らしているのだ。
子どもと貧困』(朝日新聞取材班/朝日新聞出版)は朝日新聞で2015年10月から掲載され続けている記事に加筆、修正を施し書籍化した一冊である。ここには貧困に苦しむ子どもたちと、親や学校教師などの子どもたちを取り巻く大人たちの姿が記録されている。そこにはあまりにも原因が根深い問題の数々があった。
 第一部では、「子どもたち」「シングルマザー」「学校で」「頼れない親」という四つの項目から貧困の現実がレポートされていく。そこでは、とても経済大国とは思えないようなエピソードが並ぶ。
 生活能力のない父親と子どもの三人で一枚の毛布を奪い合う家庭、虫歯の治療代も払えずに10本の乳歯全てが根だけになってしまった男児、食事には調味料とご飯しか出ない毎日の空腹をティッシュの味で誤魔化す姉妹、学費を捻出するために風俗で働く女子大生たち―。
 どうして彼らや彼女らは生命の危機が訪れるほどの生活苦になるまで助けを求められなかったのだろうか。まず、日本では貧困を告白し、助けを求めることを恥と思ってしまう固定観念が強いことが窺える。また、親も子も助けを求めようにも相談相手が見つからずに孤立してしまうケースが多いのだ。
 そして、法律や公的機関の不備も指摘されている。たとえば、日本ではシングルマザーになることで子どもの貧困率が上昇する。その原因の一つが、元夫から養育費を受け取っている家庭が二割弱しかないことだ。DVなどの苦痛を受けた相手と二度と関わらないようにするため、親権のある女性でも養育費を要求しないまま離婚してしまう傾向が強いのである。米国のような徴収代行を導入し、元夫婦が直接のやりとりをしなくても養育費を受け取れるシステムが本書コラムでは提案されている。
 貧困層を搾取する企業や個人の存在も問題だ。学費や生活費に困っている子どもに不当労働を斡旋し、利益を得る人々が増えている。いわゆるブラックバイトである。家出少女を狙った売春も報道されているが、中には家族から虐待を受け、警察や児童相談所に駆け込んだものの相手にされず、寝る場所を求めて売春した少女もいるという。
 では、社会は現在も貧困に苦しんでいる子どものために、どんな対策を講じているのだろうか。本書の第二部では現行の社会支援や制度が紹介されている。母子生活支援施設、子ども食堂など、親にとっては信頼できる第三者となり、子どもにとっては家庭以外の居場所になる施設や個人の増加が求められていることが分かる。
 そして、社会全体の貧困への認識を変えることも重要だと、首都大学東京の阿部彩教授は説く。
もし、子どもが3食食べることが必要でないと思っている人が過半数であれば、食べ物の支援が必要だと言ってもインパクトがありません。すべての子が与えられるべきだという社会の合意があり、3食食べられない子がどの程度いるのかを調べ、食べられるようになる方法を考えることが、政策につながります。
 そのためにはEUのように世間の過半数の支持を集めたうえで、貧困を判断するための「子どもの指標」を明確にするべきだという。貧困に対する世間の偏見を払拭するうえでも有効な手段になるのではないだろうか。
 この記事内では紹介しきれないほど、本書が伝えている貧困の実情や原因はさまざまである。その全てがすぐに解決するものとは限らない。しかし、親を選べない子どもたちが貧困にあえぐ姿は「自己責任」と呼んで切り捨てていい問題のみではないだろう。社会全体の寛容が今、試されているのである。
 また、本書の巻末には主な相談窓口も紹介されている。現在も貧困や虐待に苦しんでいる親子が本書を読んで、少しでも希望を見出してくれたらと願ってやまない。
文=石塚就一
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