2016/12/09

(いま子どもたちは)心臓病児の保育室:5 自分は自分、ありのままでいい


朝日新聞様
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 心臓病児の保育室「こぐま園」は多くの親子にとって、もう一つの家のような場だ。
 「また背が伸びたんじゃない?」。11月、東京都の小学4年生アカリさん(10)が学校の振り替え休日に母親(40)と訪れると、保育士が声をかけてきた。
 「カラオケに行ってきたんだ」とアカリさん。
 「歌、上手だったもんね。今日はママを独り占めできたんだね」と言われ、3姉妹の長女であるアカリさんはほほ笑んだ。
 アカリさんの血液中の酸素濃度は、普通の人の7~8割しかない。「高山で走り続けている状態だそうです」と母親は説明する。心臓内部の大動脈のつき方に問題がある「両大血管右室起始症」という病気に加え、肺の病気もあるためだ。
 肺は妊娠中に薬で治療を始め、生まれて8時間後には手術で左肺の3分の2を切除。3歳で心臓の手術も経験した。今も毎日薬を飲み、寝る時は血中の酸素濃度を上げて疲労回復を促すため、酸素チューブをつける。
 アカリさんがこぐま園に通っていたのは2歳からの2年間。最初は母親と離れれば泣き、呼吸が苦しくなって青ざめた。食も細く、風邪をひいてはこじらせた。近くに住む義母が、会う度に「なぜ、普通の子のようにできないの」と聞くことも母親には苦痛だった。こぐま園は唯一、ほっとできる場所だった。
 アカリさんの夢は、幼児番組の歌のお姉さんになることだ。昨年、学校の合唱団に入った。「皆で歌うのは好き。朝練は大変だけど……」。週3回の朝練は、母親がランドセルを持って一緒に登校する。「友達と同じ速さでは歩けないけど、待ってもらうのは悪いから」
 年齢と共に、周りと同じ活動ができない場面が増えてきた。だが、アカリさんは悲嘆せず、代わりにできることに前向きに取り組んでいる。運動会ではマイクで号令を出したり、用具を置いたり。苦手な算数は個別指導を受けているが、「大人数より分かりやすい」と話す。
 自分は自分でいい。根っこには「ありのままの娘を受け入れてくれた、こぐま園での日々があると思う」と母親は語る。(子どもの名前は仮名です)
 (前田育穂)
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