医療的ケア 保育所で急務 「社会の中で育てたい」


毎日新聞様
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医療的ケアが必要な子どもの保育所受け入れは、自治体によって対応が大きく分かれることが明らかになった。「社会の中で育てたい」。保護者は懸命に訴えている。【中川聡子、坂根真理】
     「実際に本人の様子を確認することもなく、入園を断られました」。千葉県流山市の小野里美さん(30)は力なく語る。長男蓮人(れんと)ちゃん(2)は、主に睡眠中に呼吸が止まってしまう難病「先天性中枢性低換気症候群(CCHS)」を患い、生後2カ月で気管切開した。1歳で保育所入所を申し込んだが、「保育士や看護師の配置や人工呼吸器の安全な運用が難しい」「突発的事故が起きる可能性が高い」などの理由で認められなかった。出産後も働くつもりでいた里美さんは、育児休業中に退職。現在は蓮人ちゃんが通う児童発達支援施設のパート職員として働く。発達の遅れはない蓮人ちゃんについて「支援施設は子どもが少ないし、保育所と比べると外遊びの機会も少ない。もう少し大きくなったら物足りなさを感じると思う」と話す。
     東京都目黒区の金井洋さん(43)の次女梢(こずえ)ちゃん(4)も、たん吸引が必要。2012年9月に梢ちゃんが生まれ、区役所に入所できるか問い合わせると「前例がなく難しい」。他者との関わりの中で育てたいこと、共働きが必要なこと、たん吸引は研修を受ければ保育士もできることを区役所の窓口で訴え続けた。
     都内は待機児童問題が深刻だ。認可外の保育所にも受け入れを断られた。やむなく週3~5日、看護師資格を持つ友人に預けて妻が職場復帰。14年2月に入所決定通知が届き4月から認可保育所に登園し始めた。非常勤職員が1人追加配置され、ケアは看護師が対応した。その後、保育士も研修を受け、ケア体制が整えられた。たん吸引が1日2回程度に減った今では、他の園児とほぼ変わらない園生活を送っているという。
     未就学の医療的ケア児の人数や生活実態を、厚生労働省は「不明」としている。病児と扱われて障害児施設にも入れず、就学前の発達の場所や集団生活の経験を得られない子も少なくない。ほとんどの場合、母親が仕事や将来設計を諦めざるを得ない状況に追い込まれているとみられる。医療的ケア児や重度心身障害者の子を専門に預かる「障害児保育園ヘレン荻窪」(東京都杉並区)の遠藤愛園長は「理想としてはヘレンはなくなるべき存在。家の近くの保育所に地域の子どもの一人として入所し、集団の中で育っていけるようになってほしい」と話す。障害児保育に詳しい柏女霊峰・淑徳大教授(子ども家庭福祉学)は「公立・私立を問わず医療的ケア児対応型拠点保育所を市内に1カ所でも作り、看護師や研修を受けた保育士を配置し、受け入れ態勢を作る必要がある」と指摘する。
     医療的ケア児の保育を研究する空田朋子・山口県立大助教(看護学)の話 法改正で自治体は医療的ケア児支援に努めるよう明記されており、自治体は早急に支援体制を整えるべきだ。医療的ケアを理由に、保育園という発達の場の選択肢を奪われることがあってはならず、行政の責任で保障されなくてはならない。国が主導し拠点園整備などのモデル事業を進めるべきだ。
     【ことば】医療的ケア
     医師にしか認められていない医療行為以外に、在宅で家族らが日常的に担っている医療的な介助行為。口や喉からたんを吸い出す「たん吸引」▽鼻の管から栄養剤を流し入れる「経管栄養注入」▽尿道口からカテーテルを通して尿を排出させる「導尿」など。かつては医師、看護師、保護者しかできなかったが、介護保険法の改正で、12年4月から一定の研修を受けて認定されたヘルパーや保育士も可能となった。



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