<子どものあした 保育士の役割> (下)貧困、虐待の最前線にも


東京新聞様
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「保育園にすぐ連れてきてほしい。育ててあげられるのに…」。埼玉県内の認可保育所で保育補助の仕事をする三十代の女性が、保育士資格を取ろうと思ったきっかけは、子どもの虐待の話題が出た時、園の保育士がこうつぶやいたのを聞いたことだった。
 イライラして部屋の中にいられない子は、親が離婚するかでもめていた。ただのわがままではなく、家で自分が抱えたストレスを発散していた。どんな家庭環境にあっても、園にいる間は安心して楽しい時間を過ごさせたいという保育士たちに出会い、その仕事の重みを感じた。でも保育士の手が足りない。「資格を持った保育士を増やさないと。私にも何かできるんじゃないか」。保育士資格試験を受けたいと思っている。
 東京都板橋区の保育園で保育補助をする矢寺渚(なぎさ)さん(26)も、保育士を目指して勉強中だ。補助に入っていた矢寺さんが友達をたたいた子どもを注意しようとした時、保育士が「この子はお母さんがしばらく入院中。今は不安で感情的になっちゃうから」と助言してくれた。「いつもとは違う対応が必要だった」。子どもが置かれた状況を把握しながら向き合う姿に専門職の意義を感じている。
 非正規雇用の広がりや一人親家庭の増加、子どもの貧困、虐待などが社会問題となる中、保育園はそうした子どもたちを支える最前線にもなっている。
 三年前まで川崎市の認可保育所で働いていた鈴木弓さん(32)は、「子育てが大変そうだなという家庭の場合、とにかく園とつながっていてほしい」と考えてきた。「毎日来てくれれば給食は食べさせられるし、体調などの変化にも気づくことができる」
 休日保育を利用していた男の子が「お風呂に入っていない」と気付いた時には、園で特別にシャワーを浴びさせたりもした。「そういう判断ができるのが保育士だと思います」
 成長発達に遅れがあったり、障害があったりする子が、保育園で育つ良さも実感してきた。「お母さんが孤立しないし、保育士に相談もしてもらえる」
 仕事に充実感を感じていた鈴木さんだが職場を辞めたのは、多忙な勤務と自分の子どもを育てることを両立できない、と感じたからだ。クラス便りなど、持ち帰る仕事が多く、家でも休まらなかった。
 仕事を辞めると、希望していた妊娠もかない、今は二歳の長男を育てる。「子育てを経験する保育士が保育をする良さもある」と思うが、早朝や遅い時間帯の勤務もしていた以前の状況を考えると難しい、と感じる。「就学前の子育ての重要性や、保育士の重責を知っているからこそ、現場には戻れないと思う人が多いのでは」 (この連載は、小林由比、増井のぞみが担当しました)
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