男性管理職も体験、育児の時短勤務


NIKKEI ONLINE様
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「男性管理職は育児短時間勤務の苦労を理解していない」。ワーキングマザーの本音が、サトーホールディングス(HD)の男性部長らを動かした。この秋、1日6時間の短時間勤務に挑戦したのだ。1人1週間の期間限定ながらマネジメントと家事・育児の両立に悪戦苦闘。短時間勤務トライアルから男性部長らが学んだものとは?


「ダメダメ! 食べるのは『いただきます』をちゃんと言ってからでしょ」。福沢修さん(45)が食卓にオムライスを運んでくると、待ちかねた長男(5)と次男(3)が皿にとりつく。時刻は平日午後6時すぎ。いつもならまだ会社で仕事に没頭している時間だ。この日は短時間勤務トライアル。午後4時には会社を出て、2人の息子を保育園に迎えに行き、夕食をつくった。
 サトーHDの子会社サトーテクノロジー(東京・目黒)で設計開発部部長を務める。バーコードプリンターの開発・改良などの責任者だ。通常は午前6時前に自宅を出て、帰宅は夜8時すぎ。平日の家事・育児は妻任せだ。だがトライアル中は午前9時~午後4時の1日6時間勤務(休憩1時間)に1週間挑んだ。
■初日は楽しかったが… 1週間が限界!
 「子どもとの時間が取れて初日はとても楽しかった。でも日を重ねるごとに仕事が終わらないまま退社するストレスと、言うことをなかなか聞かない息子たちへのイライラが募り、最後は爆発寸前。1週間が限界」と苦笑する。
 サトーHDはグループ14社を挙げてダイバーシティ(人材の多様化)を推進する。グループ全体の女性管理職比率は現在8%。2020年度末25%の高い目標を掲げる。新卒女性の積極採用や女性リーダーの育成などグループ全体で取り組みを加速する一方で、各社も個別に課題を掘り起こし、改善に知恵を絞る。
 サトーテクノロジーは春先に女性社員にアンケート調査を実施。その中に「女性活躍というけれど仕事と子育ての両立がどれだけ大変か。体験しなければ分かるはずがない」といった意見があった。これに呼応した複数の男性部長が全部長15人に短時間勤務トライアルを呼びかけた。
 前例のない提案に一部の部長は「管理職が短時間勤務なんて考えられない」「仕事に支障が出る」と渋った。せっかくやるならば全員の足並みがそろわないと効果は薄い。膠着状態を宇敷謙二社長(55)が救った。「まず私がやる。だからみんなもやれよ」。9月に先陣を切って1日6時間勤務を体験した。「これからは女性に活躍してもらわないと困る。男性管理職が身をもって課題を知れば、組織風土を変えられる」と説明する。
 運用ルールは(1)1日6時間の短時間勤務を1週間続ける(2)勤務時間外は携帯電話や電子メールも禁止(3)退社後は真っすぐ帰宅し、家事や育児、介護などに率先して取り組む――の3つ。早帰りしても飲みに行ったり、家でだらだら過ごしたり、こっそり仕事をしていたりしたら両立の実情は知れない。職場と家庭で異なる役割を担うワーキングマザーの生活を実感するための工夫だ。社長ももちろんルールを厳守。日が沈まぬうちに帰宅し、日ごろ全くやらない洗濯や買い物、食後の食器洗いをこなした。
対象者全員が11月中旬までにトライアルを終えた。限られた時間内で効率的に働く難しさを全員が痛感した。
 設計管理部部長の木藤守さん(45)は「着信メールすべてに返信できない。タイトルや送信者で優先順位を付け、返答できたのは3割程度」と話す。研究開発センター長の京井聡明さん(53)は「勤務時間外に携帯やメールを使えないのが思った以上につらかった。休日や帰宅後も、メールを確認して仕事の段取りを家で考えていたのだなと分かった」と打ち明ける。
 宇敷社長は権限委譲の大切さに気づいたという。「入社以来、残業を前提に1日10時間程度の就業スタイルが体に染みついている。1日6時間で回すには取捨選択が不可欠。何でも自分で見ようとせず、下に任せられる仕事は信頼して任せないと時間が足りない」
 女性登用の課題もみえた。効率重視で働こうとすると、コミュニケーションが犠牲になる。目先の仕事に必要な相手とは話すが、同僚や部下らの相談に乗ったり様子を見守ったりする時間がおろそかになった。それでは管理職の役割が果たせない。今後、家庭責任が重い女性を管理職に登用するには対策が欠かせない。
 サトーテクノロジーはこうした気付きを12月に集約し、改善策を検討する。今秋は同社単独の取り組みだったが、営業や保守サービスを担当する別のグループ会社もトライアルに関心を持ち、来年早々に実施予定だ。サトーHD人財開発部の高橋麻子部長は「仕事の進め方や顧客との関係は各社微妙に異なる。それぞれの環境で体験に根ざした知恵や工夫を共有できれば女性活躍推進の効果を高められる」と指摘する。
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