保育士確保へ 厚労省がパンフレットで呼びかけ


NHK NEWS WEB様
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保育士不足が大きな社会問題になる中、厚生労働省は、新年度に向けた保育士の求人がピークを迎えるこの時期に合わせて新たなパンフレットを作り、新卒の保育士や、資格を持ちながら現場で働いていない、いわゆる“潜在保育士”の人たちに保育の現場で働いてくれるよう呼びかけています。
厚生労働省によりますと、保育士の有効求人倍率は、去年11月の時点で、全国で2.34倍、東京では5.68倍で、ここ数年、前の年を上回るペースで推移しています。

保育士の求人は、新年度に向けた採用活動が集中する1月ごろが最も多くなるということで、厚生労働省は、この時期に合わせて新たなパンフレットを作り、保育士の資格を持つ人に保育の現場で働いてくれるよう呼びかけています。
パンフレットには、新たに導入される予定の国の施策などが紹介され、民間の保育園で働く保育士の給与を平均で3.3%改善することや、潜在保育士の人などの職場復帰に向けた研修を行うことなどが説明されています。
さらに、保育士の資格を持つ人に、近くのハローワークや支援センターに登録するよう求めています。
厚生労働省は、このパンフレットを学校や自治体を通じて配り、新卒の保育士や潜在保育士に呼びかけることにしていて、「新年度に向けて、1人でも多くの保育士が現場で働こうと思えるよう後押ししていきたい」としています。「保育士の子どもは無料」人材確保に成功
今月4日にオープンした仙台市の保育所「りっきーぱーく保育園長町」は、保育士資格を持ちながら現場で働いていない潜在保育士を掘り起こそうと、保育士の子どもを無料で受け入れることを決めて募集をしました。
その結果、採用を予定していた人数の3倍を超える38人が応募し、人材が確保できたということです。
この保育園で仕事に復帰できた保育士の森美沙さん(30)は、自宅のある宮城県名取市から1歳の娘、沙絢ちゃんと一緒に通っています。
森さんは出産後、当時働いていた保育園に戻る予定でしたが、沙絢ちゃんの預け先が見つからなかったため、仕事を辞めざるをえませんでした。
沙絢ちゃんを預かってくれる保育園を探すかたわら、働く場所を見つけたいと訪れたハローワークでこの保育園の求人を見つけ、すぐに応募しました。
採用された森さんは、今、沙絢ちゃんの成長を見守りながら、保育士として預かっている子どもたち一人一人と向き合っています。
森さんは「こんなに早く子どもを預けて自分も働ける場所が見つかると思っていなかったので、本当に感謝です。長く続けられればいいと思っています」と話しています。
保育園では、園児19人のうち12人が無料で預かる子どもになり、当面は採算を取るのが難しいということですが、保育所の運営会社の金沢和樹社長は「働きたくても働けない保育士がたくさんいることがわかった。優秀な人材が集まったので、長く働いてもらえれば良い先行投資になると思う」と話していました。
人材バンクに保育所からの相談相次ぐ
今年度、人材バンクに寄せられた保育士の求人は先月までに570件余りで、県から委託を受けた2年前の1.5倍以上に増えています。
待機児童の解消に向け、仙台市では、ことし4月に相次いで保育所が開設されることもあり、人材の確保は厳しさを増していて、中には、保育士が足りずに、受け入れる子どもの数を減らさざるをえない保育所もあるということです。
人材バンクは、保育士確保に悩む保育所の相談に連日追われていて、担当者が「登録している保育士の中には短時間なら働ける人もいます」などとアドバイスして採用を勧めていました。
宮城県保育士人材バンクの佐々木祥子さんは「朝から晩まで電話がつながらないと言われるほど、相談の電話が多いです。待機児童対策として保育所の数を増やそうとしても、そこで働く人材はなかなか見つからない状況です」と話していました。
千葉市「保育士の子どもは最優先で入れる」
その結果、この制度を利用して、子どもを預けて、再就職したり育児休暇から復帰したりした保育士は、平成27年度と28年度で合わせて121人に上りました。
千葉市は、保育士が1人働くと平均で8.8人の子どもを預かることができるようになると試算していて、この制度を導入したことで1060人余りの子どもを預かることができているとしています。
千葉市こども未来部の佐々木敏春部長は「保育士以外の子どもの利用枠を奪ってしまうのではないかという考えもあるが、結果的に、より多くの子どもを預かることができ、効果は非常に大きい」と話しています。
この制度を使って、子ども2人を保育所に預け、去年4月から4年ぶりに千葉市内の保育所に復帰した30歳の女性は「優先して希望する保育所に入れていただいたので、ありがたかったです」と話していました。
この女性が勤務している千葉市長沼原保育所の二宮さなみ所長は「保育士の数が足りないと、それだけ子どもを受け入れることが難しくなります。保育士が安心して働けることで待機児童を減らせるというのはとてもいい制度だと思います」と話していました。
支援策は各地で広がる
保育士の子どもを優先的に入所させて、母親の潜在保育士の復帰を促す取り組みは、千葉市や埼玉県越谷市などが始めているほか、東京の杉並区や千代田区、それに、さいたま市でも来年度導入する予定です。
保育士の給与を改善する取り組みも広がっています。
東京都は、おととしから保育士1人当たり月2万1000円程度の給与の上乗せを始めていて、来年度には上乗せ額を倍に拡充し、4万2000円程度まで引き上げることにしています。
また、さいたま市では、来年度から1人当たり月に1万500円の上乗せをするほか、期末手当を6万7500円上乗せすることにしています。
最大30万円給付へ さいたま 戸田
国と都道府県も復職を決めた潜在保育士に就業準備金を貸し付ける制度を予定していますが、戸田市は、これを上回る金額を貸し付けではなく給付することでアピールしようとしています。
30万円のうち20万円は、引っ越しなどの新生活準備の費用や、保育の現場で必要なジャージや運動靴、エプロンなどに充ててもらうため就業時に給付され、残りの10万円は、働き始めて1年が経過したときに研修の参加費や書籍購入など自己啓発にかかる費用などに充ててもらうために給付されます。
さらに、戸田市は、保育園などの経営側に対する補助も拡充し、新規に雇用する保育士の住居として宿舎を借り上げた場合、1戸につき月に8万2000円を上限として、国の補助金も使って一部の金額を補助するほか、市内に新たに保育施設を開設した場合は、施設の整備費や運営費の一部を補助することを、それぞれ来年度から始めることにしました。
これらにかかる費用の総額は30億円に上り、そのうち12億円を自主財源で賄うことにしていて、戸田市は、保育児童の定員を3年間で1200人分増やすことを目指しています。
さらに、せっかく働き始めた保育士に定着してもらうための環境整備も始めていて、市内の公立保育園の園長経験者や看護師などがアドバイザーとなり、サポートする取り組みを行っています。
アドバイザーは、保育士と一緒に数時間、実際に保育を行い、子どもへのよりよい接し方をアドバイスしたり、感染症の拡大を予防するための注意点などを指導したりしています。
待機児童緊急対策室の福田忠史主幹は「1つの自治体の財源は限られていますので、5年、10年、20年と戸田市で働いてもらうためには、保育士のモチベーションを考えた市独自の展開というものを考えていくべきかと思います」と話しています。
専門家 抜本的な対応が必要

「働いてくれる保育士の子どもは無料で受け入れます」と呼びかけて保育士の人材確保に成功した保育園が仙台市にあります。
保育士不足が続く宮城県。保育士の紹介を行っている県の人材バンクには、保育所からの相談が相次いでいます。
「子どもの預け先が確保できないために、保育士が復帰できない」などという声が寄せられて、千葉市は、平成27年度から、保育士の子どもは最優先で保育所や認定こども園に入れる制度を導入しました。
待機児童を抱える自治体は、何とか保育士を集めて受け入れ枠を増やそうと、さまざまな支援策を打ち出しています。
子どもの優先入所など保育士の支援策を打ち出す東京23区やさいたま市などの自治体に挟まれ、保育士の獲得に苦戦する戸田市は、新たに市内の保育園で働いてくれる保育士に、来年度から最大で30万円を給付する制度を始めることにしました。
保育の問題に詳しい恵泉女学園大学の大日向雅美学長は「財源に余裕のある自治体が、保育士の処遇改善に向けて一時金を出すことがあってもいいが、同時に研修や処遇改善を進めなければいけない。保育士は、国家資格を得て子どもの命を預かる大事な仕事なのに、給与が低すぎる。対症療法的な対策ではなく、根本的なことから対応することが必要だ。社会全体で『保育士がなくてはならない職種だ』と評価したうえで、職場環境を改善する抜本的な対応が求められる」と話しています。
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