どうすれば安全安心 家庭で起きる子どもの事故 危険防止グッズ活用を



毎日新聞様
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子どもは日に日に活発になり、さまざまな物に好奇心を示すようになる。思わぬ行動は屋内にいても大きなけがにつながりかねない。そこで、家の中での事故を防ごうと、住宅・生活用品では子どもの安全に配慮した工夫が進んでいる。用品の特徴などを紹介しよう。【井田純】


     「浴室内での転倒や、窓のブラインドのひもが首にひっかからないかなど家の中でも心配のタネは絶えません」と話すのは、東京都内で3人の子を育てる女性(38)。心配は当然で、厚生労働省の統計によると、1~4歳児の死亡原因で不慮の事故は先天奇形に次いで2番目に多い。
     この女性の家庭では、昨年、自宅を全面リフォームするにあたり、2階の窓には着脱式の手すりを取り付けた。「活発過ぎるくらいの次男(4)は窓から飛び出しかねないので、何らかの対策は必要。でも、火事などの緊急時を考えると、避難路として活用できるようにしておきたいので、取り外しができるものにしました」
     こうした手すりは、大人の手なら容易に取り外せるが、子どもがぶつかったくらいでは簡単に外れない工夫が施されている。同種の製品を製造・販売する大阪メタル工業(大阪府八尾市)によると、もともと着脱式手すりは、商業ビルやマンションなどの消防進入口で使われていたという。こうした建物では、手すりが消防活動の障害になるケースがあった。同社は、現場からの「緊急時に外せるものがあれば」との声に応えて開発した。製品は、老人ホームや幼稚園などでも徐々に採用されるようになり、「最近ではお子さんのいる家庭からの問い合わせが増えてきました。昨年には、大手住宅メーカーの住宅でも採用されました」と担当者は話す。
     タンスの引き出しやドアなどに指を挟んでしまう事故も起こりがちだ。
     このような事態を想定して危険防止グッズを製造しているのが、粘着テープを使った清掃道具などを展開するニトムズ(東京都品川区)。引き出しやオーディオラックの扉や、サッシが簡単に開かないようにするストッパー、感電を防ぐコンセントカバーなど十数種類をそろえている。
     危険防止グッズを開発したのは、1990年代初め。89年の合計特殊出生率が過去最低を記録した「1・57ショック」を受けてのことだった。同社は「少子化によって、従来よりむしろ子どもの安全に対する関心が高まるのではないか、と考えました。屋外での事故に比べて、家の中にある危険にはそれほど目が向いていなかったので、製品開発の余地があった」と語る。「利用者の声を受け、きれいにはがせる製品も開発し、好評を得ています」
     誤飲も乳幼児にはつきものだ。中でも、深刻な健康被害につながりかねないのが医薬品だ。日本中毒情報センターの「中毒110番」に寄せられる子ども(5歳以下)の医薬品誤飲の情報は、年間で8000件を超える。厚労省は昨年7月、子供が開封しにくい「チャイルドレジスタンス(CR)機能」を持たせた包装について検討するよう、製薬業界や薬剤師の団体に通知を出した。
     CR機能には錠剤を押し出す際に力がいる包装シートなど開封強度を高めたものや、蓋(ふた)を押しながら回して開けるボトルなど開封手順を複雑化した製品などがある。
     大手製薬企業のグラクソ・スミスクライン(同渋谷区)では、2012年にCR機能の導入を始め、誤飲しやすいものや、誤飲すると危険性が高い抗うつ剤など10種類の医薬品についてCR包装を採用している。同社は「CR機能を持ちながら、患者にとって服用の妨げにならないよう、欧州の規格試験に合格したものを採用している」と説明する。
     普及が期待されるCR包装の課題が、開発・生産コストだ。厚労省医薬・生活衛生局は「容器や包装に大きなコストがかかっても、それをそのまま医薬品価格に反映させることはできない。このため、製薬企業だけに対策を求めるのは現実的でない」と話す。また、薬局がCR包装の医薬品を開封して処方する際には、薬剤師の作業負担が増大してしまう問題もある。CR包装だけでなく、子どもの目をひかない色・形の工夫なども含め、製薬企業、薬剤師らの間で検討が進んでいるという。
     乳幼児が目に付いたものを口に入れたくなるのには、手先の発達とともに歯の成長も密接に関わっているという。東京都は昨年、歯磨き中に転倒した子どもが、歯ブラシで喉を突く事故への注意を呼びかけた。東京消防庁管内では、15年までの5年間に、5歳以下の歯ブラシによる事故で213人が救急搬送された。
     ライオン(同墨田区)では、力が加わると左右に曲がることで転倒の際の安全性を高めた乳幼児用歯ブラシを開発し、2月から発売する。オーラルケア事業部の担当者は、開発方針について「きちんと歯を磨けるように、ブラッシング時に力がかかる方向には曲がりにくい設計にしました。また、より大きな事故につながらないよう曲がっても折れない材質を使っています」と説明する。
     また、花王(同中央区)は、転倒しても口に引っかかるように保護プレートを付けた歯ブラシを13年から販売している。「プレートが当たっても歯が損傷せず、しかも外れないように材質・構造など試行錯誤を繰り返しました」と開発担当者。
     両社とも、乳幼児用歯ブラシとともに、親が専用の歯ブラシを使って子どもの「仕上げ磨き」を行うように勧めている。ライオンの担当者は「けがの心配などの理由で乳幼児の歯磨き定着率は約4割。歯磨きは手や指を使うことで細かい動きを学ぶ機会になるだけでなく、親子のコミュニケーションにもなります」と話す。
     口に入れて転ぶと危険なのは、フォークや箸なども同じ。対策が施された製品を賢く利用しながら、子どもの安全に目を配りたい。

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