ドクターカー 命救う 福岡市の保育所 事故の1歳男児 心肺停止越え 元気に退院 現場での医療措置実る


西日本新聞様
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福岡市南区の認可保育所「こばと保育園」で11月に起きた事故で一時心肺停止に陥った1歳の男児が今月16日、元気な姿で退院した。入院先の福岡大病院(同市城南区)によると、1分でも救命処置が遅れれば命を落とす危険があったが、現場に駆け付けた医師の迅速な処置により順調に回復し、現時点で後遺症もないという。この奇跡的な救出劇の裏には、医師が救急車で現場に出動する「ドクターカー」の活躍があった。
 事故は11月14日午後2時50分ごろ発生。男児は保育園の排水口に頭を突っ込んだ状態で見つかり、発見時は心肺停止状態だった。119番を受けた市の救急隊の判断で、近くの福大病院救命救急センターにも連絡が入った。救急隊が現場に向かうとともに、福大病院に待機していた別の救急車に医師が同乗して出発した。
 5分後、医師が到着すると先着の救急隊の心肺蘇生と並行して、脚の骨髄に直接注射して薬剤を投与。約15分後に男児は息を吹き返した。出動要請から病院到着までの22分間、切れ目のない救命処置によって男児は一命を取り留めた。
 入院中、男児は病院内を走り回ったり、ピアノを弾いたりするまで回復し、退院の日は医師や看護師と記念撮影して笑顔で全員と握手したという。男児の母親は「息子の元気な姿を見て大変ありがたく思う。ドクターカーの整備が進んで息子と同じように助かる命を増やしてほしい」と話している。
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 「救急隊の判断、医師の適切な処置など救命の連鎖がうまくいった事例。何一つ欠けても命を救うのは難しかった」。同センターの石倉宏恭センター長は振り返る。
 通常の救急車は救急救命士のみが乗車し、車内では人工呼吸や心臓マッサージなど応急的な処置しかできない。一方、ドクターカーは医師や看護師が同乗するため、いち早く必要な医療処置を行うことが可能で救命率が高まる。
 福岡市では2005年から、福大病院を含む8病院に、市の二つの救急隊が輪番で待機する「ワークステーション方式」を導入。緊急時には、病院から市の救急車がドクターカーとして出動する。今回の事故でも福大病院に救急隊が待機していたことが初動の早さにつながった。
 ただ、個々の病院のドクターカーは普及が進んでないのが現状。医師の確保が難しい上、救急車の導入費用などが大きく、福岡県の4月の調査では、救急患者を受け入れる246病院のうちドクターカーを運用するのは15施設にとどまる。
 そこで注目されるのが、乗用車に医療機器を装備する欧州型ドクターカーのFMRC(Fast Medical Response Car)だ。救急車の導入費が1台約3千万円なのに対し、FMRCは1台350万円程度。石倉センター長は「今後はこれまでの待つ救急から攻めの救急への転換が求められている」とFMRCの普及に期待を寄せている。
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 【ワードBOX】ドクターカー
 消防本部からの要請を受け、医師や看護師を患者のいる現場に派遣する車両。ドクターヘリと違い、天候や離着陸場所に左右されないのが特長。厚生労働省によると、2006年12月時点でドクターカーを所有する全国の救命救急センターは77施設。現在は高規格の救急車型と、08年の道路交通法改正によって緊急車両と認められた乗用車型がある。福岡県では14年時点で救急車型を所有するのは12施設、乗用車型は5施設。2施設は両方を所有している。
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