「働く女性がどんと増えた」 保育需要、見通し甘く


朝日新聞様
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2017年度末の「待機児童ゼロ」達成について、自治体の間で絶望的な見方が出ていることが朝日新聞社の全国84自治体へのアンケートで浮き彫りになった。安倍政権が看板政策の一つに掲げてきたが、保育需要の見通しの甘さを指摘する声も出ている。
 安倍政権が17年度末のゼロ達成を表明したのは13年4月。アベノミクス「3本の矢」で成長戦略に「女性活躍の推進」を盛り込み、保育の受け皿を新たに40万人分整備するとした。自治体がそれぞれ行う保育園の利用希望調査を元に15~19年度の5年間でゼロにする計画だったが、2年前倒しすることになった。受け皿づくりを担う自治体にも、「17年度末」までの計画作成を求めた。
 整備は進み、15年秋に目標を「50万人」に引き上げた。ただ、働く女性が増え、需要増加に追いつかない。アンケートでは達成が難しいとの認識を示した自治体のうち、静岡市や岡山市、福岡市など33自治体が「保育需要が想定を上回った」ことを理由に挙げた。
 兵庫県西宮市は昨年4月の待機児童数が前年の2・4倍の183人になった。神戸や大阪への通勤圏で、新築マンションに共働きの子育て世代が入ってきたことなどが要因と考えられ、担当者は「3、4年前にここまでの変化は予想できなかった」。昨年5月、保育定員を3年で2割増やし、19年度の待機児童ゼロを目指す新計画を発表した。
 政府目標を最初から断念していた自治体もある。昨年まで4年連続で待機児童数全国一の東京都世田谷区は、15年度からの整備計画を作った当初から、需要の増加などで達成は困難と判断。20年4月までに受け皿を確保してゼロにするとした。
 この計画さえも、予想を超す需要の増加を受けて変更する予定だ。20年4月の達成には、当初計画からさらに約1700人分の受け皿を増やす必要があることがわかったという。
 東京都町田市も当初から「19年4月」を目標とする。事業者や用地、保育士の質の確保、財政負担を踏まえ現実的なスケジュールにしたとする。担当者は「待機児童解消は重要だが、前提に安心・安全な保育の提供がある」と話す。
 厚生労働省幹部は当初の整備目標の「40万人分」について、「『出産後に働きたいかどうか』という保護者のニーズ調査からはじきだした。だがその後、団塊の世代が65歳になって労働市場ががらっと変わった。女性が労働力として欠かせなくなり、働く女性がどんと増えた」とし、「見込みが甘かった」と反省する。
 自治体も潜在需要を甘くみてきた。その反省から現行計画は潜在需要も反映させるニーズ調査を元に作るはずだったが、調査結果が想定以上だと少なめに修正する自治体もあり、内閣府もこれを容認した。
 保育政策に詳しい日本総研の立岡健二郎研究員は「自治体がニーズ調査から対症療法的に短期的な整備量を決めていくやり方は限界だ。政府が女性活躍を成長戦略の柱とするなら、北欧諸国並みの女性就業率を目指すといった国のグランドデザインを先に示して予算を配分し、自治体にそれを実現するための計画を作ってもらうべきだ」と話す。
 17年度末にゼロにできると見込んだ自治体でも、希望者全員が認可園に入れるわけではない。東京都杉並区は今年4月入園に4457人が申し込み、このうち3割の約1350人が認可園に入れなそうだ。それでも「今年4月当初」でゼロにできる可能性があるという。認可外園に入った子どもなどを待機児童としてカウントしないためだ。
 東京都や区が運営費を補助する認可外園だけではない。一定の質を満たしているとして区が利用料を補助するベビーホテルを、月160時間以上利用する子どもも数えない。昨年はこうしたケースで待機児童から132人が外れたという。
 「達成できない可能性がある」とした東京都港区も、昨年4月から一定の基準を満たしたベビーホテルなどに月160時間以上通う子どもの親に利用料補助を始め、待機児童に数えないようにした。
 保護者らでつくる「保育園を考える親の会」の普光院亜紀代表は「一般的にベビーホテルなどの認可外園は行政の運営費補助がなく、職員配置などの基準も緩くて自治体の関与が少ない。こうした園に入ったら待機児童ではないとの考え方は、親の感覚からかけ離れている」と指摘する。(足立朋子、伊藤舞虹、長富由希子)
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