見守られ公営住宅で保育


YOMIURI ONLINE様
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大阪府の自治体が、公営住宅の空き室で、小規模保育施設を設置する取り組みを始めた。不足する用地を確保し、待機児童を減らすのが狙いだが、ここでも住民の反対で頓挫するケースがある。(河下真也)
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 大阪府島本町の府営住宅で昨年11月にオープンした「RIC ホープ島本保育園」を訪ねた。ここでは、12人の0~2歳児を預かっている。
 17号棟1階のドアを開けたとたん、「イヤやぁー」「先生~、遊ぼっ!」と、にぎやかな声が耳に飛び込んできた。運営会社社長の黒田命人みことさん(37)に話を聞こうとしても、声がかき消されるほどだ。
 「今のご時世、うるさいと苦情も多いのでは」。心配になって聞いてみると、黒田さんは笑顔で首を振った。「窓、天井、壁は全て二重にしています」。確かに外に出ると、どこに保育園があるのかわからないほど静かで、近くの国道171号を走る車の音だけが聞こえた。
 防音に加え、3DKの部屋を一新した改修費用は約800万円。それでも、「ビルのテナントだとトイレや調理場も新設するので倍近くかかる」と黒田さん。さらに国や府、町から4分の3の補助があり、負担は約200万円で済むという。家賃も年30万円弱と格安で、経営環境は悪くなさそうだ。
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 大阪府内の待機児童は2015年10月時点で3349人で、東京、沖縄に次いで多い。府は、すでに市営住宅で開園している名古屋市を参考に、昨年2月から府営住宅の空き室利用を、府内の自治体に打診している。島本町はこれに応じた第1号だ。
 夕方、2歳の長男を迎えに来た杉坂唯香さん(27)に聞いた。昨年4月、認可保育所の選考に漏れたが、この保育園に預けることができ、パートで働き始めた。「住民のおじいちゃん、おばあちゃんが『こんにちは』と声をかけてくれる。見守られているようでうれしいですね。料金も認可保育所と同じなので、経済的にも助かってます」と話した。
 町職員が開設前、近隣の11世帯を戸別訪問したところ、反対がなかったどころか、住民らは率先して保護者用の駐輪スペースを空けてくれたという。
 同じ棟に住む男性(72)に「子供の声は気にならないですか」と尋ねると、笑顔が返ってきた。「ほとんど聞こえへんで。それに、山の中の一軒家に住んでいるわけやないから」
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 府内ではほかにも、交野市の府営住宅で4月1日に開園した。
 ただ、どこでもうまく進んでいるわけではない。
 大阪府吹田市は独自に、ある市営住宅で昨年10月に開園することを計画。住民を集めて説明会を開いたが、猛反対を受けて断念したという。
 その市営住宅を訪ねた。住民の一人はインターホン越しに「子供の声がうるさいでしょ。みんな『後から入ってくるのはおかしい』って言ってたんですよ」と打ち明けた。
 一方、ある女性は「実は孫が待機児童で、保育園ができるのは賛成なんやけどね……。でも反対の声が大きかったから、何も言わないようにしてきたの」とぽつりと漏らした。
 同市は府営住宅2か所でも計画したが、住民の反対で実現しなかったという。
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 「2歳までの子が10人ほどなら、声も足音もそれほど大きくはならないのに、『うるさい』というイメージばかり先行してしまっているのでは」と、山縣文治・関西大教授(子ども家庭福祉学)は指摘する。
 3歳と0歳の息子がいる共働きの記者(37)としても、待機児童を一人でも減らす取り組みはありがたい。どうすれば周囲の理解が広がるのだろう。
 山縣教授は提案した。「単なる説明会より、すでに開園している場所を見学してもらうなど、自治体側の工夫も、もっと必要ではないでしょうか」
公園なども活用 都市部の自治体は、保育施設の開設場所探しに苦労しており、公営住宅のほかにも公共施設の活用に乗り出している。
◇公園などにも活用
 待機児童が508人(2016年10月現在)の大阪市は来年4月、全24区の区役所と市役所の空き部屋の計25か所に、小規模保育施設(最大計450人程度)を設置する方針で、17年度予算に改修費約4億円を計上した。大阪府豊中市では公園2か所の一部を使い、今年11~12月に認可保育所(定員計156人)がオープンする。
小規模保育施設 市町村から認可され、0~2歳の子を6~19人預かる保育施設。0~2歳児は待機児童の8割以上を占めており、国が2015年度に導入した。16年4月時点で全国に約2400か所。定員が20人以上必要な認可保育所より狭い用地で開設できる。
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