私の社会保障論 医療的ケア児の保育 難しい看護師の確保=白十字訪問看護ステーション統括所長・秋山正子

熱を出した赤ちゃんのイラスト
毎日新聞様
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 医療的ケアを受ける子どもたちが集団保育を受ける機会は、門戸が狭く、入園を希望しても受け入れられないと断られる場合が多い。そこで、保育所などで医療的ケア児の受け入れが可能となるよう態勢を整備し、地域生活支援の向上を図ろうと「医療的ケア児保育支援モデル事業」が今年度から始まった。

 厚生労働省保育課が所管し、実施を希望する都道府県・市町村を募って、その地域内の保育所や認定こども園などの取り組みを支援するものである。

 このモデル事業が始まる前に実施された全国調査によると、2017年3月末時点で、保育所など290カ所の施設で医療的ケア児を受け入れていることが分かった。これまで実績を多く積んできた大阪府が施設数・医療的ケア児数ともに最も多く、46カ所で43人を受け入れていた。次いで東京都の21カ所、24人だった。山梨、徳島、香川、愛媛の各県は受け入れ施設なし、という結果だった。

 保育所等で実施している医療的ケアのうち、最も多いのが「経管栄養」。次いで「服薬管理」「吸引」「導尿」となっている。この中で、経管栄養や吸引といった医療行為は、必要な知識や技能を習得するための研修を受けることで、一定の要件の下、保育士も対応可能となった。しかし、研修を修了した保育士の数は少なく、保育士の医療行為に対しての不安や負担感は、モデル事業からも明らかになっている。

 モデル事業では看護師を雇い入れ、医療的ケア児に対応できるよう予算を立てている。だが、看護師の確保が難しいという側面も大きく浮かび上がった。

 医療的ケア児を育てている保護者は、経済的に厳しく働かざるを得ないこともある。しかし、保育を希望しても断られ、地域の私的なネットワークなどを細々と利用しながら子育てをしている姿が見えてくる。

 子どもは、他の子どもとの集団生活を送る中で、目を見張る成長を遂げることは自明の理。医療的ケア児がその機会を得られないというのは、新生児集中治療室(NICU)を卒業して在宅生活を始めた子どもとその保護者にとって、先行きの希望を閉ざされる思いではないだろうか。

 モデル事業に手を挙げた市町村は、まだまだ数少ない。しかし、その実践報告からは、さまざまな困難を乗り越え、保育と医療のコラボレーションを図る努力が垣間見える。ある自治体でこの事業の窓口を担った方は、NICUの管理者の経験のある看護師。病院から飛び出し、NICU卒業生たちが地域で普通に保育を受けられるようにと尽力している。保育所に勤める看護師の確保も大事な時代となった。いったん退職した看護師諸氏の職場復帰を心から期待している。(次回は湯沢直美さん)

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