2018/04/02

「妊娠の順番決め」は守るべきルールか

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毎日新聞様
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「子供ができてすみません」に園長から「ルール破った」
 愛知県の私立保育園で、運営に支障をきたさないためとして園長が女性保育士の結婚時期や妊娠・出産の順番を決めていることが、議論を呼んでいる。保育士の一人が順番から外れて妊娠。「子供ができてすみません」と謝ったが、園長に「勝手にルールを破った」と叱責されたという。問題の背景を追った。【鳴海崇/生活報道部】

<夫からの投稿>園長が女性保育士の結婚時期や妊娠・出産の順番を決定
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<第4子が認可落選…>「保活」状況変わらず
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「順番決め」誰のため?
 このケースは、妊娠した保育士の夫(28)が、毎日新聞に寄せた投稿で明らかになった。投稿は2月28日朝刊くらしナビ面「男の気持ち」に、「子育て後進国」という題で掲載された。以下はその全文だ(東京・中部本社版と北海道支社版に掲載)。

    ◆

 結婚して8カ月、今年の1月に妻の妊娠がわかりました。妻は保育士で、とても忙しい園に在籍しているため、不安で浮かない顔をしていました。

 妻の保育園では、結婚の時期、妊娠の順番まで園長に決められていて、「先輩を追い抜くことは駄目」という暗黙の了解があるようでした。不安な表情の妻を見ていられず、私は妻と一緒に園長先生に頭を下げに行きました。「子どもができてすみません」

 園長は渋々認めてくれたものの、翌日から妻に対して「どうして勝手にルールを破るのよ」と、つらい言葉を投げかける日々が続いています。妻は激務の仲間のことを考え、肩身の狭い思いでいます。今回、計画的ではなかった私たちにも非があるのは重々わかっています。しかし子どもを産む順番が決められ、それを守ることは一体誰のためになるのでしょうか……。

 保育士は、皆さんが仕事に行っている間、他人の子どもを預かり、親に代わってしつけや作法を教えています。行事のために多くの仕事や作業を家に持ち帰り、時にはサービス残業をして、土、日曜日に働くこともあります。残業代も出ない給料で、やりがいのためだけに他人の子を育てます。

 保育士は、自分の子を犠牲にしてまで他人の子どもを育てます。保育士は、日本の将来を担う子を育てる尊い職業です。

 私は、そんな妻を尊敬し、応援しています。子どもを育てる職業がこんな環境であるこの国は子育て後進国です。

低賃金・長時間労働で敬遠される
 投稿から、国が待機児童の解消を急ぐ陰で、他人の子育てを支える保育士が我が子を安心して生むこともできない労働実態が浮かんだ。

 反響は大きかった。<生命の誕生を素直に喜べない社会に未来はない>や<給料が安いのに仕事が多く、親の勝手な要望に応えていたら保育士はやってられない>などの声がネット上で飛び交った。

 投稿は民放各局のワイドショーでも紹介された。ある番組では経済評論家の勝間和代さんが明確な人権侵害だと指摘。その一方で、作家の立花胡桃さんは「女性職場で予定なしに妊娠すると周りがフォローしなければならず、他の女性の迷惑になる」と園側に理解を示した。

 保育関係者で作る「保育研究所」の村山祐一所長は「結婚や妊娠の『順番決め』は保育園で珍しくない。低賃金で長時間労働を強いられる保育士の職が敬遠され、数が足りないことが背景にある」と話す。「一人の保育士が長年かけて経験を積む仕組みが崩れ、保育の質が低下している。『順番決め』は職員が辞めずに経験を積む工夫とも映る」とみる。

月給は全職種平均を10万円下回る
 保育士の給料や労働時間はどうなのか。

 厚生労働省の昨年の統計によると保育士は平均35.8歳、勤続年数7.7年で月給22.9万円。全職種の平均より10.4万円低い。

 私立保育園の場合、国の基準に基づき子供の人数や年齢などの条件で決まる運営費が市町村から給付され、そこから保育士の給料が出る。経験の長い保育士は給料を高くせざるを得ず、残りを大勢の若手で分けると薄給に陥る。政府は保育士の給料アップをうたうが「実際は園長ら現場任せで、全員の給料に反映される保証はない」(村山さん)。

 1日の勤務時間は長く、長期休暇はない。土日に保育番が回ってくることもある。村山さんは「日中の時間は保育に充て、書類作成や行事準備は残業でこなすのが当たり前の世界だ」と説明する。

 投稿した男性は毎日新聞の取材に、夫婦で謝罪したものの園長から「結婚の休暇は認めない」と言われたと証言。反響に戸惑いつつ「残業が多くても給料を上げたり、産後の働きやすさを重視したりして労働条件を差別化すれば、保育士が集まり定着するのではないか」と話す。

職場上司から「出産は35歳で」
 『順番決め』について、少子化問題に詳しいジャーナリストの白河桃子さんは「保育所に限らず、女性の多い職場にありがちなケースだ」と指摘する。

 化粧品関連会社で働く東京都三鷹市の女性(26)は昨年、職場の女性リーダーに「出産は35歳ごろに」と指示された。自分と同僚女性社員の計23人の「出産・育児ローテーション表」がメールで配布され、「同時に4人以上休むと業務が滞る。勝手な行動は処罰の対象になる」などと注意書きまであった。

 女性は結婚2年目で不妊に悩み、毎日新聞の取材に「ただでさえ妊娠しづらいのに、年齢を重ねて子を授かる機会を逃したら責任を取ってくれるのか」と不安を打ち明けた。

 白河さんは「強制されなくても同じ部署で周囲に迷惑をかけないよう、同僚が産休や育休を取ったら『自分は無理』と遠慮してしまう。日本の企業は経営計画に女性社員の出産や育児を織り込んでいない」と指摘する。

 女性の就労問題に詳しいジャーナリストの治部(じぶ)れんげさんは「上司が妊娠を理由に不利益な取り扱いをすることは、男女雇用機会均等法や育児・介護休業法が禁じており、違法だ」と指摘。愛知県の保育園のケースを「防止措置を講じるべき立場の園長が率先してマタニティーハラスメント(マタハラ)をしており、ひどい」と批判している。

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