規制の岩盤に風穴 子育て事業、家族への愛が原点に

子供たちを見守る保育士のイラスト
日経スタイル様
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待機児童や保育士不足という課題を抱える保育業界。それでも、ベビーシッター派遣の国内最大手、ポピンズが掲げる「働く女性の支援」という目的はぶれることがない。保育の分野に教育の要素を取り入れた「エデュケア」などこの30年間に培ってきた独自のノウハウを今後、世界に広めていきたい、と会長の中村紀子さんは意気込む。(前回「局アナから起業家へ 子育ての苦労をビジネスに」参照)

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 それまで一部の人にしか知られていなかったポピンズが、その知名度を上げ、飛躍するきっかけが1990年、大阪市で開催された「国際花と緑の博覧会(花博)」だった。

 たまたま大阪へ出張した際、「花博まであと183日」という電光掲示が目に飛び込んできました。花博ならば親子連れも多数訪れるはず。キッズルームを設置したら喜ばれるのでは、とひらめいたのです。


国際花と緑の博覧会会場に設けた託児施設の前で(中央が本人)
 思いついたら私は形にしないと気がすまない性分です。さっそく花博事務局との折衝を始めました。開幕まであと6カ月という段階で、新たなプランを盛り込むのはさすがに容易ではありません。設置場所と資金繰りにようやくメドがついたと思ったら、「有料施設とはいかがなものか」「事故が起きたら責任は誰がとるのか」と一難去ってまた一難でした。

 粘り強く、花博事務局を説き伏せたと思ったら、今度は並行して養成を進めていた保育スタッフの何人かが辞めてしまう事態に。スタッフには身だしなみや言葉遣いもきちんとするようにお願いしていた私の方針が、保育の本質とは違うと反発されたようでした。

 数々の試練の末に、花博開幕に合わせ、キッズルームのオープンにこぎつけたのです。今でこそ国際博覧会に託児施設の設置は当たり前ですが、その第1号の前例が花博でした。その実績が評判を呼び、各地の警察本部や郵政局からナニーサービスの法人契約依頼が舞い込み、会社が飛躍的に成長していったのです。

 今でこそ保育の分野に新規参入した企業は少なくないが、ポピンズはその先駆けゆえに随分と苦労も味わった。

 保育の世界は福祉の分野と密接に絡んでいます。何をするにもやれ「国の規制がある」「前例がない」と門前払いの連続でした。厚生労働省の担当者には「中村さんは3歩先を行っている」とよく嫌みを言われたものです。でも、理想を追い求めることをせずに、現状は何一つ変わらないし、変えることはできない、と私は思っています。



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