“保活”現場で異変 保育所、あえて落選

待機児童のイラスト
毎日新聞様
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待機児童ゼロを目指す大阪市 保護者、育休延長狙う
 「絶対に入れない保育所を教えて」--。待機児童ゼロを目指す大阪市の“保活”現場で異変が起きている。昨秋、保育所に入れなかった場合に育児休業(育休)期間と育休給付金受給を延長する国の制度が拡大されたが、育休を延長するには「入れない証明書」が必要で、あえて落選を狙うケースが表面化した。吉村洋文市長は「制度上の問題だ」として31日に厚生労働省を訪れ、加藤勝信厚労相に直接、改善を申し入れる。【林由紀子】

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 市保育企画課が、今年4月からの入所を申し込み、落選した育休中の保護者453人を調査。うち36%の163人は区役所との面談で「絶対に入れない保育所はどこか」「(入れないことを証明する)保留通知はどうすればもらえるか」と尋ねるなど、入所の意思がないと分かった。背景には「もう少し子どもと一緒にいたい」と望んだり、復職のタイミングを計ったりする親の事情があるとみられる。

 他にも保育所の利用申込書の希望施設欄(第6希望まで可)に、1カ所しか記入しないケースや、希望する保育所に内定したのに辞退し、募集枠の少ない2次募集に応募して落選、保留通知を受け取ったケースもあった。第1希望のみで入れなかった場合も通知の交付対象になるためで、市はこうした「入所意思のない申し込み」は相当数に上るとみる。

 育児・介護休業法は育休は子どもが1歳に達する日まで取得できると規定。給与の一定額が育休給付金として雇用保険から支払われる。しかし、近年の待機児童問題を受け、昨年10月からは、申し込んでも入れない場合は、最長で2歳まで再延長が可能になった。その手続きには入所保留通知が必要なため、育休を延長したい親が、早期復帰を期待する企業に説明するためなどに形式的に申し込んでいる可能性が高い。

 大阪市の担当者は「こうした需要はこれまでも一定あったが、育休期間の拡大や国の待機児童の定義に育休中のケースが加わったことで隠れていた存在が表面化した」と分析。吉村市長は今月、ツイッターで「本当の保留児童数が不明、入所事務も混乱している」と書き込んだ。保留通知だけでなく、「入所が困難な地域」と指定する別の証明でも育休延長を認めるよう、厚労省に要望する方針。

 大阪市によると、同様の現象は岡山市や横浜市、川崎市などでも発覚。東京23区の一部では、育休延長が目的の申し込みを、入所選考の対象から外すなどの対策を取っているところもある。

 昨年、東京から大阪に転勤してきた30代の男性会社員は、1歳の次男の保留通知を得るため、あえて東京周辺で高倍率の保育所に申し込んだ。東京に職場がある妻の育休延長が目的で「周囲の助けもなく、妻子だけ東京に残せない」と話す。延長されれば、大阪で一緒に暮らせるためで、別の会社で共働きするケースでは多いとみられる。男性は「保育の受け皿を整える一方で、多様な働き方に合わせた柔軟な制度にしてほしい」と訴えた。

 猪熊弘子・東京都市大客員教授(保育政策)の話 子どもを持つ女性の働き方を企業がどう考えているかの問題だ。「出産後、早期復帰を求められる」との声をよく聞くが、いつから働き始めるかは個人の選択。会社の都合で無理強いするのはハラスメントにあたり、女性活躍や働き方改革にも逆行する。

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