保育士切実「人手増やして」 退職の悪循環鮮明、愛知・1万人調査

忙しく仕事をしている白衣の女性のイラスト
中日新聞様
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保育士のサービス残業が常態化している。研究者と愛知県内の保育所、労働組合などが協力して保育士一万一千六百五十三人を対象にした調査では、正規職員の月の残業時間は平均一八・九時間で、七割を超える保育士が残業時間以外にも、自宅で持ち帰った仕事をしていることが分かった。背景には、恒常的な保育士不足があり、現場からは制度改正を強く求める声が上がっている。

 「仕事のやりがいはすごくあるんです。でも…」。県内の市立保育所で働く四十代の女性保育士はため息をつく。「サービス残業が当たり前。いくら手際良く事務仕事を済ませても、勤務時間内に終わらせるのは到底無理」

 この女性の場合、残業は月四十時間ほど。しかし、支払われる残業代は月に三時間分だけ。認可保育所の運営費は「公定価格」と呼ばれ、子ども・子育て支援法に基づき国が定める。この枠を超えて残業代を払ったり、保育士を通常より多く配置したりする費用は、地元自治体の負担となる。

 女性が勤める園では週一回、保育士同士の打ち合わせがある。始まるのは子どもが少なくなる午後四時からで、行事が近い時期などは二時間以上に及ぶ。午前七時の開園から勤務している日でも参加は必須。一時間の休憩中も一週間分の保育計画を立てるなど、事務仕事に没頭する。「そうしないと、帰りが遅くなって体が持ちません」

 担当は一歳児。十人を保育士二人でみるが、一緒にみるのはパートの保育士。パート二人が月の半分ずつ交代で働く。「子どもたちは毎日一緒にいる私に寄ってくるので、なかなか部屋から離れられない。その分、クラス便りや保育の振り返りなどの書類作成は後ろにずれ込む」という。

 「人が足りず残業が長い現状に耐えきれずに、辞める保育士もいる。すると、さらに人が減る。保育士を増やし、この悪循環を断ち切ってほしい」と訴える。

 調査は「保育労働実態調査」として昨年十一月から今年二月まで愛知県内の公立、私立の認可保育所などで働く保育士、園長らを対象に実施。保育士は正規の五千三百三十五人(全体の17・7%)と、非正規五千三百十一人が回答した。この規模での調査は全国初という。サービス残業の現状のほか、正規の過半数が休憩時間をつぶして仕事をしていることが浮かび上がった。

 「国が打ち出す政策は、必要な施策と反対の方向」と、調査を分析した名城大准教授(女性労働論)の蓑輪明子さんは指摘する。一部の自治体では目を行き届きやすくしたり、保育士の負担を軽減したりする目的で、「一歳児なら保育士一人あたり子ども六人」などとする国の基準より、保育士一人あたりの子どもの数を少なくしている。しかし、厚生労働省は二〇一六年四月、待機児童が多い自治体に、入所する子どもの数を増やすよう通知した。

 調査では、独自に保育士を多く配置している名古屋市と、他の自治体では、正規の時間外労働の長さや残業の未払い時間、休憩できたかどうかなどに差があった=グラフ。蓑輪さんは「国の政策として、月給を上げるだけではだめ。残業代の支払いはもちろん、現場に人を増やす必要がある」と訴える。

 保育士の求人倍率は首都圏はもちろん、地方都市も右肩上がり。「保育士が見つからなければ、事務や掃除をする職員でもいい。人を増やし、残業を減らしてほしい」。前述の女性保育士は切実な思いで訴える。

 (稲熊美樹)

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