2018/06/21

リケジョ育てる女子高と創造力磨く幼稚園 高木学園

グラバー邸のイラスト
日本経済新聞様
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横浜市にある学校法人高木学園は2018年6月16日、創立110周年の記念式典を開催した。その場で、19年4月に理数系の女子高生を育てる学部を新設することを発表。また、子供のうちから創造力を養うことを狙って建て替えた、附属幼稚園の新園舎と園庭を公開した。この2大プロジェクトには東京大学名誉教授の坂村健氏、アートディレクターの森本千絵氏、建築家の隈研吾氏らが参加している。

 女性教育の先駆けとして、1908年に創立された現・高木学園。式典であいさつした高木暁子理事長はまず、来春に現在運営している高木学園女子高等学校の名称を「英理女子学院高等学校」に変更し、そのなかに理数系の女子高生を専門に育てる「iグローバル部」を開設すると述べた。

■iグローバル部、坂村氏が監修

 iグローバル部のオープンに当たり、国産基本ソフト(OS)「TRON(トロン)」の開発で有名な東京大学名誉教授で、現在は東洋大学情報連携学部長を務める坂村氏に監修を依頼。人工知能(AI)を使いこなせる女性人材の育成を目指し、理数系科目や論理思考の学習を中心にした授業を実施する。プログラミング言語の習得や、ウェブサイトやアプリケーションの作成、ロボット制作などにも取り組む。また、グローバルコミュニケーションには欠かせない英語教育にも重点を置く。

 18年7月から建設に着手するiグローバル部の校舎は、あらゆるモノがネットにつながるIoTを全面採用。3Dプリンターやレーザーカッター、スキャナーなどが完備した電子工作スペース「メイカーズ・ハブ」も置く。授業にはタブレットを積極活用する。

 女子高生向けに、これほどの理数系カリキュラムと設備を用意する高校は珍しい。高木理事長は「なぜ女の子に理数系の専門教育が必要なのかと疑問に思う人もいるだろうが、これからの女性には理数リテラシーが不可欠」と断言。そうした信念の下、110年の歴史を誇る老舗の女子高が学校名まで変更し、AIや情報技術(IT)を学ぶiグローバル部の新設に踏み切った意義は大きい。

 式典で講演した、ジェンダー問題に詳しく政府関連機関などで活動する、関西学院大学の大崎麻子客員教授は「思春期の女性のエンパワーメントが国際的なテーマになっている。女性が経済力を身に付け、人生の選択肢を増やしていくうえで、今後はAIやITの理解が欠かせない。起業マインドの育成にも理数系の知識は避けて通れない」と後押しした。

 ここで、ガールズエンパワーメントのキーワードになるのが、世界的なトレンドであるという「STEAM」という考え方だ。これからの女性に必要なサイエンス、テクノロジー、エンジニアリング、アート、数学の頭文字から成る言葉だ。まさに理数系の単語が並ぶ。だが1つだけ異質に感じるのはアートだろう。大崎客員教授は「ここでいうアートとは美術や芸術ではなく、創造力のこと」と説明を加えた。

 今やどの企業でも求められているイノベーションや新規開発に必要な要素が、STEAMには全てそろっている。

■幼稚園舎、隈氏と森本氏が設計

高木学園附属幼稚園の新園舎を総合プロデュースしたアートディレクターの森本千絵氏(中央の女性)。園舎や園庭を設計した隈氏(左の男性)。高木学園附属幼稚園の高木彩子園長(右の女性)。走り回れる園舎の屋上から撮影
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高木学園附属幼稚園の新園舎を総合プロデュースしたアートディレクターの森本千絵氏(中央の女性)。園舎や園庭を設計した隈氏(左の男性)。高木学園附属幼稚園の高木彩子園長(右の女性)。走り回れる園舎の屋上から撮影

 STEAMのなかでも、アート(創造力)には育成方法に答えがない。だが高木理事長は、幼少期の経験が人の創造力の形成に大きく影響すると考えた。そこで110周年の記念事業として、高木学園が運営する附属幼稚園の建て替えを決断。総合プロデュースをアートディレクターの森本氏に依頼した。快諾した森本氏は、旧知の仲である建築家の隈氏に園舎の設計をお願いし、2人のコラボレーションが実現した。

 新国立競技場の設計など、国内外で多数のプロジェクトが同時進行している隈氏にとっても「最初に森本さんのスケッチがあって、それを基に建物や庭を設計したのは初めて。でもだからこそ、こうした幼稚園舎ができた」と語る。

 ちなみに隈氏は、幼稚園がある横浜市の菊名に隣接する大倉山の出身だ。子供の頃、近所を走り回っていた経験を思い出し、駆け回れる園庭や屋上を設計したという。都会ならではの狭い敷地と110周年記念式典までの約10カ月間で建てるという短い施工期間という制約があったにもかかわらず、計画通りに完成にこぎ着けた。

 隈氏の建築といえば、木材など自然素材の利用が特徴的だ。園児には幼少期から様々な自然素材に触れ、質感の違いに親しんでほしいと考え、多様な素材を取り入れている。

 一方、森本氏は幼稚園が掲げる「花育」という概念をベースに、園児自身が種から花に育っていくようなストーリーを描き、教室や園庭のイメージをイラストにしていった。園庭は空から見ると、植木鉢のようになっているという。

 教室からトイレまで、壁面は森本氏のデザインであふれている。普段から自然のイラストに触れ、園児の感受性を刺激するように心がけたという。森本氏の手書きのデザインを「コンピュータでビニールクロスに転写して壁紙として貼り付ける技術を、これほど全面的に採用した施工例は珍しい。壁が汚れてもすぐにふき取れる」(隈氏)。ただし、「私のデザインが主張しすぎると園児が描いた絵などが壁に貼られたとき、私の壁紙のほうが目立ってしまう」(森本氏)。そこで淡い色合いやシンプルなデザインに仕上げていった。

 女子高生向けの理数系コースの新設や、勉強よりも子供の創造力を育むことを意識した幼稚園舎の設計という発想には、高木理事長の経歴が大きく影響している。大学卒業後、トヨタ自動車と日本ロレアルで商品開発やマーケティングを担当。その後、英ロンドンで経営学修士号(MBA)を取得するなどキャリアを積み重ねてきた。

 ところが前・理事長だった父が急逝し、32歳で高木学園の理事長を突然継ぐことになった。そこで生きたのが、日本最大のメーカーや外資系企業での勤務経験や留学体験だった。これからは女性にも理数系の知識や技術、そして英語力が不可欠と痛感。今回のiグローバル部の新設と、子供の創造力を駆り立てる幼稚園舎の建て替えに結実した。

(日経 xTECH 川又英紀)

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