「今後27.9万人の保育の受け皿が必要」政府が幼児教育無償化の前にすべきこと

保父さんと子供のイラスト
ビヨンド様
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野村総合研究所は6月26日、全国の未就学児を持つ女性4,088名に対して、保育に関する調査を実施した。これによると現状保育の利用希望があるのに利用できていない子どもは、全国で34.8万人と推計され、政府の女性就業率目標を達成するためには、あらたに27.9万人の保育の受け皿が必要だという。

ビヨンド(Beyond)編集部 安住 久美子

「今後27.9万人の保育の受け皿が必要」政府が幼児教育無償化の前にすべきこと
いまだ解消されない待機児童問題

2018年5月、政府は幼児教育・保育の無償化について当初の予定より早く、2019年10月に前倒しする方針を発表した。消費税引き上げに合わせて、少しでも反発をおさえたい考えだ。

しかし、その一方で、待機児童問題は解消されておらず、育児休暇から復帰できない、仕事を探したくてもはじめられないという親は多い。厚労省の発表によると、平成29年4月1日時点で26,081人だった待機児童数は、10月1日には55,433人と増加。平成28年10月1日時点と比較すると、7,695人増加している。

少子高齢化による労働力不足。だからこそ女性も含め「一億総活躍社会」を目指すという政府の理想は、具体的な対策まで手が届ききっていない。

今働く親たちが本当に求めているものは、一体なのか。野村総合研究所が6月26に公表した、「保育サービスに関するアンケート調査」の結果から考えていきたい。

同調査は、全国の未就学児を持つ女性4,088名を対象にインターネット調査で行われ、回収サンプル数は3,688名。さらに子どもが4月から保育を希望していたにも関わらず利用できなかった女性400人に対し、追加調査を行った結果をまとめたものである。

居住地域別、子どもの年齢別、母親の就労有無別に一定の回答数を集めたうえで、集計の際は平成27年国勢調査における人口構成比をもとにウェイトバック集計を行ったという。この方法は「政府が定めている女性就業率目標を達成するため、どの程度の受け皿が必要か」という推計を出すためである。

保育施設の利用を希望するができていない子どもは、全国で34.8万人
調査から推計された結果は、以下のとおりである。

●今年4月から保育施設の利用希望があったのにできていない子どもは全国で34.8万人
●利用できていない子どもの5割以上が、申し込みしたが入園できなかった
●利用できていない子どもの約4割が、希望はあるが実際には申し込みをしていない
●利用申し込みをしなかった親の7割は、自治体窓口や保育所など、なんらかの保活を行った
●政府が定める女性の就業率目標達成には、あと27.9万人分の受け皿が必要

政府が発表している、2022年度末までの女性就業率の最新目標は80%。さらに厚労省が2017年6月に発表した「子育て安心プラン」によると、2022年度末までに新たに32万人が保育を必要とする。このことから、推計で27.9万人が保育が必要になるという結論に至ったという。

出典:厚労省「子育て安心プラン」より

保育施設に入れるならば「もう一人」生みたい8割
子どもが1人の母親で、保育園問題が解消されればもう一人子どもを持ちたいと考えている母親は8割に上るという。保育施設整備は、出生率の上昇にも重要な手段であるといえるだろう。

同研究所は、以下のようにまとめている。

今後、2022年度末に保育の受け皿充足が実現することで、その後の出生率が1.65(国立社会保障・人口問題研究所による人口推計の出生高位の場合の仮定値)まで徐々に上昇したと仮定すると、2023年度以降、少なくとも15年間は、保育需要が2022年度末と同規模で維持されると推計された。

また、59.9万人分(「子育て安心プラン」による32万人分を含む)の保育の受け皿追加整備による全体の経済効果は3.8兆円程度になる可能性がある。

働き方改革と同列に考えるべき「保育改革」
7割の人が保活を行っているものの4割が利用申し込みをしていない。そこに一種の諦めともとれる心理がある。筆者も同じく未就学児をもつ親であるが、「働きたいけどどうせ保育園には入れない」という声はよく耳にする。現状の保育制度では、フルタイム勤務でなければポイントをとれないという話もある。

働き方改革により、時短、テレワーク、フリーランスなど多様な働き方を推奨する政府方針に反し、保育改革はいまだ進んでいない。

働きたい時に子どもを安心して預けられる環境づくりは、働く女性たちにとって切実な問題だ。どの対策が先かという話ではない。少子高齢化、待機児童問題、そして労働力不足。すべてが同時に進行しており、同じスピードで対策をとらなくてはならないのである。

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