幼保無償化 現場の不安解消が先決だ

「無料」のイラスト文字
熊本日日新聞さま
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幼児教育や保育を来年10月から無償化する政府の方針に「賛成」は約半数にとどまるなど、対応に不安を抱えている自治体が多いことが、共同通信が都道府県庁所在地や政令指定都市などに対して行った調査で分かった。

 安倍政権の看板政策でありながら、実務を受け持つ自治体に理解が広がっていない現状が浮き彫りになった。議論を積み重ねず、首相官邸主導で方針を決めたつけが回った格好だ。政府は、自治体に混乱が生じないよう責任を持って対応する必要がある。

 自治体にとっては、準備期間が短いことへの不安のほか、無償化によって保育所などの利用希望者が増え、「待機児童ゼロ」の政府目標に逆行してしまうのでは、との懸念も大きいようだ。

 幼稚園や保育所は慢性的な人手不足で、保育士などの人材確保は厳しさを増すばかり。「保育士の増員など、待機児童を減らすための政策を優先するべきだ」といった声が上がるのも無理はない。

 政府は、自治体や保育現場から上がるそうした不安に誠実に向き合い、解消に努めるべきだ。まずは、無償化に向けた詳細な制度設計を詰め、具体的な道筋を速やかに示してもらいたい。

 幼児教育・保育の無償化は、昨秋の衆院選前に安倍晋三首相が突如打ち出した。ただ、当初の制度設計は認可外保育所を対象外とするなど公平性を欠き、政府内の議論も迷走した。

 今年5月になってようやく、消費税率10%への引き上げに合わせ、世帯年収を問わず3~5歳児の幼稚園や認可保育施設の利用を無償化するとの政府方針がまとまった。

 しかし、認可施設の利用は全額無料とする一方、認可外の施設については月3万7千円までの補助にとどまり、公平性の課題は残ったままだ。また、厳しい財政事情の中、高所得の世帯まで無償化の対象とすることに疑問の声も根強い。

 一方、無償化の時期についても、当初は2019年4月から一部を先行実施する予定だったが、自治体の準備が間に合わないことが分かり、19年10月施行に変更された。それでも、調査では6割を超える自治体が対応への不安を訴えた。自治体への支援強化も忘れてはなるまい。

 保育の質の確保を危ぶむ声も絶えない。政府は、安全性確保の観点から、職員数など一定の運営基準を満たすことを無償化の条件としているが、5年間は猶予される。保育士がわずかしかいない施設でも対象となり、子どもが劣悪な保育環境に置かれる恐れも排除できない。「無料だから」と安易に利用する希望者が増えれば、最も保育を必要とする子どもが利用できなくなる事態も考えられる。

 幼児教育・保育の無償化は「骨太方針」の主要政策の一つでもある。政府は、国民の中に残るさまざまな疑問や懸念を払拭[ふっしょく]し、子どもや保護者に混乱を招かないよう万全を期してもらいたい。

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