「ぼくが学どうでおもうこと」学童保育に訴えた小4男児の不満

学童保育のイラスト
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小学生の子どもを持つ共働き世帯、ひとり親世帯にとって、放課後に子どもを預かってくれる学童保育はなくてはならない存在だ。「学童があるおかげで安心して働き続けられる」というのは共通の思い。学童保育に通う子どもたちは年々増え続けており、待機児童問題も報道されるようになった。
学童保育の認知度は上がってきたものの、地域によってその形態は千差万別。多様化という言葉では片付けられない、さまざまな格差が見えてきた。
ぼくが学どうでおもうこと

先生のたいおうがおかしいと思うことがあります。泣いたもの勝ちではないのかな?とか、一年生だからといって、えこひいきしているように感じてしまします(原文ママ)。

大声でいわなくてもよいことを、いちいち大声をだして、きついことばで先生が言うのがいやです。そんなに大きな声でいわなくてもちゃんと聞こえています。

百人いっしゅとかやりたくないのに、やらないと外で遊べないといわれてやらされたのがいやでした。

これは、関西圏の学童保育に今夏まで通っていた小学4年生のシンタロウ君(仮名)が、学童指導員に宛てて書いたものだ。ほかに、普段のあそびについての疑問や提案が書かれていて、苦心して書いた様子がうかがえる。

手紙を書くことになったきっかけは、約3週間前の指導員の言葉だった。シンタロウ君が同学年の子と遊んでいると突然、1年生の男児からボールを投げつけられた。ニヤっと笑って逃げた1年生をシンタロウ君は追いかけて、謝れと言った。すると相手が泣き出し、声を聞きつけた指導員がやってきた。シンタロウ君は事情を説明。1年生が謝った。

そこで指導員が放った言葉は、「あなたもごめんなさいと言いなさい。謝らないと1年生の親とややこしくなるよ」。勝ち気なシンタロウ君は「なんで僕が謝らなきゃいけないんだ」と思ったが、指導員2人に詰め寄られ、「ごめん」と言わざるをえなかった。翌日から、「絶対行きたくない」と登所を拒否するようになった。

最初は学童が「大好きだった」シンタロウ君
母親のアキコさん(仮名、40代)は、振り返る。

「もともと外で思い切り遊ばせてくれる学童が大好きな子だったんです。虫が好きなので、毎日虫捕りもしていましたが、指導員はいつも見守ってくれていました。虫の飼い方も教えてもらい、ますます虫好きになりました。

友だちとケンカしたり、もめることはありましたが、指導員が子どもたちの気持ちに寄り添いながら仲裁してくれていました。コミュニケーションの苦手な子にも丁寧に関わっているなとも感じていました。いろんな子がいて、一緒の仲間だよという空間を作ってくれていて、人員が足りていないなかで、ほんとによくやってくださっていると感謝していました」

ところがシンタロウ君が3年生になると、これまでの指導員が異動。その代わりにやってきた指導員は、外遊びの時間を制限、虫捕りはダメ……と、今まで可能だったことを禁止にした。子どもたちは混乱し、ストレスをためていった。「指導員が代わると、これほど学童の雰囲気が変わってしまうのか」とアキコさんは驚いた。

同学年の男の子たちは退所していったが、放課後を1人で過ごさせることが不安でアキコさんは通わせ続けた。

定員を超過すると低学年が優先されるため、これまでは4年生になると退所するのが慣例だった。しかし今年度は欠員が出たことで、4年生も学童を続けられることに。アキコさんがそう告げると、シンタロウ君は「行きたくない」と泣いて訴えた。指導員は僕の話を聞いてくれない、頭ごなしに怒る……。シンタロウ君の不満は募っていった。そんなとき、くだんの出来事があったのだ。

指導員に口ごたえをした別の子どもの保護者が「子どもの態度について、親としてどう思うのか?」と迫られたという話も思い出した。退所させるしかないとアキコさんは決断したが、もしかしたら、と望みをかけて話し合いの場を求めた。このまま通うにしろやめるにしろ、シンタロウ君が思いを伝えることも大切だと思ったからだ。

シンタロウ君は面談の日、冒頭の文章を指導員の前で読み上げた。アキコさんも指導員への感謝、敬意を示したうえで、「子どもの声をいったん受け止めたうえで、学童としてできることと難しいこと、本人が直さなければならないことを話してほしい。親としてできることも教えてほしい」と伝えた。しかし、シンタロウ君は指導員の言葉に納得ができぬまま、面談は終わった。1カ月待ったが学童から、それ以上の回答はなかった。

なぜ指導員は「かくれんぼ」を禁止するのか?
厚生労働省は2015年、学童保育運営の「従うべき基準」を施行。「放課後児童支援員」という指導員の公的な資格が設けられ、研修も課された。保育の質を底上げするためだ。

しかし、保育の質には明らかなばらつきがある。また、待機児童問題を抱えるなかで、「基準を満たす指導員を確保することが難しい」という地方自治体の声に応えて、政府は基準を撤廃する方向に舵を切ろうとしている。保育の質の格差はますます広がりそうだ。

大阪市内の学童保育で働いて20年のキャリアがあり、大阪府や和歌山県で「放課後児童支援員資格研修」の講師を務めるコウタさん(仮名、41歳)はこう話す。

「友だちともめたり、ぶつかることは相手の思いに気づく機会です。子どもたちは人との関わりのなかで成長していきます。しかし、指導員が時間にも心にも余裕がないと、大人の都合で『ごめんね』『いいよ』を言わせて、解決したことにしてしまうのかもしれません。

また、企業が運営に参入するようになって、安全第一を理由に、『やってはいけないこと』ばかりになってしまうところもあります。極端な例で言えば、見つけられなかったら困るという理由で、かくれんぼを禁止にするとか。管理する大人の側の論理でしかありません」

学童に通う子どもは年々増え続け、待機児童も問題化してきた。子どもは増えるが、見守る指導員は増えない。待遇が低いため、なり手も少ない。学童保育業界も、慢性的な人手不足な状態にある。

日替わりのアルバイトでシフトを組むため、継続的に子どもを見守る体制がなく、子どもがケガをしたかどうかの引き継ぎさえままならない学童もある。人員が足りないまま保育を行えば、子ども一人ひとりと向き合う時間も、心の余裕もない。場当たり的な対応しかできなくなる。

十分な保育を行うためには適正定員があり、厚労省も基準の中に明記している。しかし、待機児童問題を表面的にクリアするために、適正定員を超えた子どもを預かってしまう学童もある。詰め込まれた子どもたちは荒れ、対応に疲れた指導員の言葉は威圧的になっていく……。

まだまだ問題抱える「学童保育」業界
よりよい保育をしようと取り組む指導員がいる一方で、NGな指導員の話は、あちこちから聞こえてくる。

夏の公園で日傘をさしたままの、まさに子どもを見ているだけの人。同僚とのおしゃべりに夢中の井戸端会議グループや、好きな子どもを孫感覚でかわいがるおばあちゃんタイプ。頭ごなしに叱ることをしつけだと勘違いしている人もいれば、持論を展開し保護者を説教する姑系、年下の正規指導員から注意されて逆ギレする老人も。はては、体罰をしても悪いことをしたという意識がない人や、上級生のいじめを子どもが伝えても見て見ぬふりを決め込む人……。

「保育の質を守るには同僚との打ち合わせは欠かせませんし、保育の質を上げていくためには研修や、保育の実践をゼミ形式で報告し合う勉強会などへの参加は必須です。大阪市の学童保育は保護者会が運営しているため、財政的に不安定なところはありますが、保護者会が学童運営に理解があるため、勤務時間内に毎日打ち合わせもできるし、勉強会への参加も保証されています。

しかし、これは全国的に見て少数派です。給料が安いのに、どうして自腹で勉強しなければならないのか、と思う人がいても仕方がないかもしれません。勉強会への参加が経済的に無理な人もいるでしょう」

コウタさんは理解を示しつつも、「やっぱり学び続けることは必要だ」と強調する。

「学童によって指導員の呼び方はさまざまですが、先生と呼ばれるところも多い。長年働くうちに、知らず知らずのうちに尊大になり、自分の意のままに子どもたちを管理する王国を作ってしまうかもしれない」

前出のアキコさんに尋ねると、彼女が口にしたのは学童への期待の言葉だった。

「うちの子は途中でやめることになりましたが、学校や家庭では学べないことを学べたと思っています。学童はただ子どもを預かってくれるところとしか初めは思っていませんでしたが、人を育てる場所だと思うようになりました。そんな貴重な学童という場所を守っていってほしい。だから、指導員によって保育の質に差が出ないことを願います」

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