【深・裏・斜読み】 待機児童2万人超 保育士不足、資材高騰で「整備追いつかず…」

産経ニュース
------------------------------------------------------------------------------------------------
 認可保育所に入所を申し込んでも入れない「待機児童」。
厚生労働省の調べで今年4月、4年連続で減少しているものの、
なお2万人を超える高水準にあることが分かった。
安倍政権が「女性の活躍」を成長戦略の柱に据える中、
各自治体は解消を目指すが、建設資材の高騰や保育士不足が壁となり、
整備が追いついていない状況が背景にある。

プレハブ保育園舎でも受け入れは予定の半分

 都心のベッドタウンで高級住宅地として知られる東京都世田谷区。
昨年4月時点で884人だった待機児童は、今年1109人に拡大した。
厚労省の調査では、2年連続で待機児童数が最も多い「ワースト1位」の自治体になった。
「働く女性が増えて入所希望者は右肩上がり。施設整備が追いつかない」。
区の担当者は悲鳴を上げる。

 地価が高く、ただでさえ敷地の確保が難しい中、追い打ちをかけたのが、
建設業界を取り巻く人手不足と資材高騰の影響だ。
区は今年4月までに3つの保育所を新設予定だったが、この影響で工期が延長。
入園時期に間に合わず、今年7、8月に開園がずれ込んだ。

 「区立小学校のグラウンドを間借りし、
プレハブの仮設園舎を造るなどして対応した」(担当者)というが、
受け入れられたのは予定の半分の180人のみ。
担当者は「都心で空き地が少なく、新規の開設は難しいが、
今後も国有地を安く借り受けるなどしながら整備を進めたい」という。

「ワースト2位」返上の福岡…不満の声

 昨年は695人と全国ワースト2位だったところから一転、
待機児童がゼロになった福岡市。
市内に5園を新設するなど、わずか1年で定員を1820人分増やした。
「ワースト2位返上という市長の厳命を受けて、
整備を急いだ結果」と担当者は胸を張る。

 だが、市民の反応はすべてが好意的とは言い難い。
駅に近く人気だった保育所の定員を増やすため、
「遊戯室」を保育ルームに転用したり、耐震性や定員確保のため保育所を移転させたところ、
近くにホテル街があったりしたことから
「保育環境が悪くなった」などと不満の声も出ているという。

 また、待機児童にカウントされないものの、
希望の保育所に入れずに入所待ちをする「未入所児」がなお1116人いる。
さらに「立地の悪い保育所では、逆に定員割れとなるミスマッチが起きている」という。

「認可外」に活路
 昨年はワースト7位だった川崎市が力を入れたのは
「認可外」の保育施設の活用だ。

 同市は昨年4月、保育士の数などで市独自の基準を満たした保育施設を
「川崎認定保育園」とし、独自の財政支援をしていくことを決定。
昨年10月には施設の利用者に、最大で月2万円を助成する制度をつくり、
認可保育所との差を縮める方策に打って出た。

 また、認可保育所についても株式会社の参入を促し、
空き店舗などの利用を推進。待機児童を1年で376人減らした。

 株式会社の活用は「横浜方式」とも呼ばれ、
独自基準を設ける方法は東京都が平成12年に「認証保育所」として導入済み。
担当者は「まねをしたわけではないが、
待機児童を減らすため、あらゆる施策を行っていきたい」と話している。

「給与低い」「忙しすぎる」で保育士資格生かさぬ人も

 待機児童の解消に向け、厚生労働省は平成29年度末までの5年間に
全国で計40万人分の定員を増やす計画だが、保育士の不足は深刻だ。
「給与が低い」「休憩が取れない」など労働条件が悪く、
資格を持っていても保育の仕事を希望しない人が多いためという。

 厚労省の推計によると、保育サービスの潜在ニーズは265万人。
これを満たすために定員を40万人増やすと、
同年度には7万4千人の保育士が不足すると予測されている。

 一方、同省によると、保育士の資格を持ちながら、
ハローワークで別の職種を希望する人は多い。
同省が25年に保育士を希望しない約1千人に理由を聞いたところ、
約半数が「(保育の仕事は)賃金が希望と合わない」と回答。
「責任が重い・事故が不安」も4割に及んだ。

 全国福祉保育労働組合が今年3月にまとめた調査でも
「責任のわりに給与が安い」「就労時間が長く、保護者の対応にストレスを感じる」
「人数に余裕がなく、1人休むとぎりぎりの態勢になる」などの意見があった。

 同省の調査では、こうした問題が解消した場合、
保育士として働きたいとの回答が約6割あり、
同省は「賃金を増やすために補助金を出す施策を進めており、
活用を進めてほしい」としている。(伊藤鉄平)
------------------------------------------------------------------------------------------------