フィルタリング:スマホ普及で子供「外して」利用率初の減


毎日新聞
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 子どもがインターネットを利用する際、
有害サイトを見られないようにする対策として「フィルタリング」がある。
携帯電話会社などが提供するサービスだ。
今年2月の内閣府調査ではフィルタリングの利用率が初めて減少に転じた。
官民挙げた普及活動が行われているが、
スマートフォン(スマホ)の急速な普及に法律が追いついていない実情があり、
家庭や学校での教育が重要だ。
 ◇「LINEしたい」

 横浜市青葉区で10月上旬、地元の社会福祉協議会などが、
子どもが安心してネットを使うための講習会を開き、保護者ら約20人が参加した。
講師の中島尚樹さん(45)は、
子どもから「LINE(ライン)が使えないからフィルタリングを外して」と言われ、
求められるままフィルタリングをやめた実例や、
子どもが自分で購入できる音楽プレーヤーやゲーム機では
フィルタリングの利用率が低いことなどを紹介した。

 その上で、中島さんは「子どもは好奇心が旺盛だが社会経験が乏しく、
トラブルに巻き込まれやすい」と指摘し、
子どもと一緒にルールを作ることや、ネットを使う場合は、
よく考えた上で利用しなければならないことを訴えた。
「子どもの方がネットに詳しくて口出しできないという保護者もいるが、
子どもが自分で判断できるまで親がフィルタリングなどで
コントロールすることが重要」と話す。

 ◇スマホ対応、後手に

 フィルタリングは2008年に制定された
「青少年インターネット環境整備法」で規定された。
携帯電話会社は18歳未満の青少年が利用する携帯電話に
保護者が不要と申し出ない限りフィルタリングを提供しなければならない。
しかし、スマホの普及で、LINEなど新しいサービスが出てきたうえ、
音楽プレーヤーやゲーム機でもネット接続ができることから、
携帯電話会社が提供するサービスだけでは対応ができなくなった。
参入する事業者が相次ぐ格安スマホでどうなるかも不明確だ。

 このため、内閣府の検討会は年内に青少年とネットに関する
新しい行動計画案をまとめる予定で、
委員から同整備法の改正を求める意見も出ている。
しかし、通信の自由との兼ね合いや、新しい技術は今後も次々に登場していくことから、
どこまで対応できるかは不透明。
検討会委員の一人、国分明男・インターネット協会副理事長は
「フィルタリングを入れれば解決という考えは限界にあるのではないか。
ネットの正しい知識を持つことが重要」と話す。

 ◇知識追いつかず

 2月の調査を受け、内閣府など関係省庁は官民挙げて、
フィルタリングの普及活動に取り組んだ。
新学期前に学校、PTAや地域などでの多くの講座を開いた。
フィルタリングソフトの開発会社、デジタルアーツの
今年6月の調査では使用率は44%と2月に比べて14ポイント上昇。
一定の効果があったとみられる。

 それでも、半数以上は利用していない。
同社の工藤陽介コンシューマ課担当課長は
「保護者の知識がまだ追いついていない」と指摘。
啓発活動に参加する保護者は関心が高いが、
その他の人にどう理解してもらうかが課題だという。
同社は10月に発売された、任天堂の「Newニンテンドー3DS」に
ゲーム端末として国内で初めて、初期状態から有効になるフィルタリングを提供した。
この動きが他のゲーム機や音楽プレーヤーに普及すれば、
フィルタリングの利用率は向上する。こうした技術改良も重要になる。

 ◇高校生が勉強会

 フィルタリングと同時に、子ども自身のネットへのかかわり方も重要だ。
東京都中央区で10月上旬、関東地方の高校生たちがネットの安全な使い方を考える催し
「高校生ICTカンファレンス」が開かれ、8校23人が参加した。
グループに分かれて、ネットを安全に使うために気をつけることなどを討議。
「必要以上にネットを利用しない」「ネットに個人情報を書き込まず、
フィルタリングを強化すべきだ」など、活発な意見がでた。
栃木県立宇都宮北高2年の柴田萌花さん(16)は
「友人の名前で送られてきたURLがワンクリック詐欺だったが、
怪しいという知識を持っていたのでだまされなかった。
友人同士でそういうことを話せればいい」と話す。
親や教師の目の届かないところは、子ども同士で気を付け合うのも重要だ。
こうした試みは全国で広がりつつある。

 お茶の水女子大の坂元章教授(社会心理学)は
「家庭ではルール作りや、子どもの発達段階に合わせた情報環境の整備をしてほしい」とし、
さらに「学校は授業や通信などを通じた子どもへの学習支援と保護者への啓発、
子ども自身も情報モラルの習得や友人とのルール作りといった対策が必要で、
地域でも保護者啓発や相談体制の充実などが考えられる」と話している。【柴沼均】

 ◇フィルタリング

 出会い系やアダルト、有害情報を含むサイトなど、
青少年に不適切な内容の閲覧を制限する機能。
携帯電話会社が提供している他、パソコン向けのソフトもある。
保護者が個別に設定すれば、フィルタリングで見られなくなるLINEや
ツイッターなどソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)の利用も可能。
総務省の調査では、フィルタリングの意味を適切に理解している青少年ほど
ネットへの知識が深く、スマホやSNSのルールを設けている家庭ほど
フィルタリング利用率が高い。
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