学童保育、揺らぐ財源 増税延期で支援どうなる

中日新聞
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 共働き家庭の小学生たちが放課後を過ごす学童保育(放課後児童クラブ)。
来春から始まる新しい子育て支援制度には、学童保育の充実も含まれる。
人口減社会を迎え、子育て支援などへの投資に使うために上げられた消費税率。
だが、質の高いケアに努める学童保育指導員の処遇改善には生かされていない。 

◆指導員の処遇改善が急務

 午後二時前、名古屋市港区の中川学童保育所に、
小学一年の男児(6つ)が入ってきた。「ただいまー」。
「あいさつが上手にできるようになったな」と指導員の長坂智志さんが迎える。
時間とともに児童は増え、夕方には建物内に足音が響き合う。
「子どもの状態を把握するには、三十人ぐらいがいいんですが…」と長坂さん。
保護者の要望で四十四人を受け入れ、
パートの指導員三人と宿題や遊びを見守っている。

 同市の学童保育は親たちが手弁当で始めた。
市の主催する全児童対象のトワイライトスクール(放課後子供教室)はあるものの、
午後六時の終了までに迎えに行けない親や、
きめ細かな対応を求める親は学童保育を選ぶ。
「成長の度合いは皆違う。一人一人にどう寄り添うかを考えている」と長坂さん。
学童通信を週数回発行し、家族で交流する運動会なども開く。

 運営費は月一万~一万九千円の親の負担と市の補助で賄う。
しかし、午前中の準備や打ち合わせは無報酬で、
スペース確保も実態は現場任せだ。
長坂さんは「(夏休みや土曜日なども含め)学校以上に過ごす時間が長いのだから、
行政の責任で質も高めていくべきでは」と話している。

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 さいたま市大宮区、大宮南小のなかよしキッズでは、
坂田耕一さん(37)ら常勤指導員二人とパート職員三人で児童四十六人を支える。
一クラス(四十人以下)に二人以上の指導員配置を定めた国の基準を上回るが、
その待遇は不安定だ。

 運営するNPO法人さいたま市学童保育の会によると、
三十年勤続者で基本給二十八万円。十二年半勤務し、
手取り月収が約二十万円の坂田さんは「家族がいたらやっていけない」。
時給八百十円のパートはより深刻で、
市内五施設で年度初めの人員を確保できなかった。


 「親が共働きの子は放課後の居場所を選べない。
仕事で疲れた親にもストレスを吐き出せない。
そんな子どもたちが憩える場にしたい」と、
坂田さんは子ども目線での運営を志す。

 消費税の増税分を財源として、
本年度は保育緊急確保事業の計約一千億円が、自治体に補助される。
ただ、自治体に知らされたのは今年初めと遅かった。
しかも事業は国、都道府県、市町村で三分の一ずつの負担だが、
政令指定都市のさいたま市は負担が三分の二と大きい。
同市は予算編成で保育園の拡充を優先させたため、
「学童保育の充実までは回らなかった」と市の担当者は話す。

 消費税増税が見送られ、子育て支援などの財源をどうするかは大きな課題だ。
衆議院選では大半の政党が「待機児童の解消」「子育て支援充実」を掲げるが、
多くは指導員の処遇改善策や財源などの具体性に欠ける。
同市学童保育連絡協議会の加藤哲夫事務局次長は訴える。
「新制度で保育園待機児童解消などには光が当たったが、
学童保育はいつまでも“弱者”のままだ」

◆依然深刻な施設不足

 厚生労働省が先月発表した放課後児童クラブ(学童保育)の実施状況によると、
クラブ数、登録児童数ともに過去最多を記録。
待機児童は一万人に迫り、利用を希望する児童数に対して、
施設整備が追いつかない状況は、ここ十年大きく変わっていない=グラフ。

 「児童を育てながら働くためのインフラは絶対的に不足している」と指摘するのは、
東京都内を中心に学童保育の開設を支援する、
NPO法人「放課後NPOアフタースクール」代表理事の平岩国泰さん(40)。
同じ待機児童でも保育所に比べ、あまり注目されてこなかったのは、
「小学生は一人で過ごせる」という社会の認識が根強いからだ。

 子どもが小学生になると短時間勤務制度が使えなくなる会社は多い。
都市部では地域の人間関係が希薄になり、平日に子どもが遊ぶ姿を見かけない公園も。
「増税に頼らず優先的に取り組んでほしい。
大人には、地域社会で育てる視点が必要」と平岩さんは危機感を募らせる。

◆女性就労の「壁」に

 政府が六月にまとめた新成長戦略では、小学校入学後に預け先を確保できず、
女性が仕事を辞めざるを得ない「小一の壁」という言葉が使われた。
女性の就労支援の観点から、
放課後の子どもの居場所の必要性がようやく知られるように。
今後五年間で三十万人分の受け入れ枠を拡大するため、
七月に策定した「放課後子ども総合プラン」で、
学校の空き教室活用により、新規開設の放課後児童クラブの八割は、
学校内で実施する方向性も示された。

 具体的には学校施設を活用する文部科学省の事業「放課後子供教室」と一体的、
または連携して進める=イラスト。
約二万カ所ある全小学校区のうち、一万カ所以上を一体型で実施する目標も掲げた。
同教室は全児童を対象とし、地域住民らの協力を得ながら、
宿題指導などの学習支援や工作、実験教室などの多様なプログラムを提供している。

 ただ、同教室が「学習・体験活動の場」であるのに対し、
学童保育は「生活の場」の意味合いが強い。

 放課後の教育支援を話し合う文科省の中央教育審議会委員も務めた、
NPO法人スクール・アドバイス・ネットワークの生重幸恵(いくしげゆきえ)さんは
「子どもを置いておけばいいという話ではない。
指導員は子どもに対応する専門性が必要」と強調する。

 我慢できない、うまく表現できず手を上げてしまうなど、
対応が難しい子どもと接するには一、二回の研修では不十分。
見守り方や声かけのタイミングを体系的に学習しておけば、
子どもとの信頼関係の構築につながる。

 学童保育の指導員資格は国の基準が定められ、
来年度から都道府県による資格認定研修が始まるなど、前進もある。

 一方、子どもが安心して生活するには、指導員の手厚い配置基準が必要だ。
全国学童保育連絡協議会は「専任の常勤指導員を常時、複数配置する」などの
充実を求めている。
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