小児科医が警鐘! 放課後子ども教室へ移行しゆく“学童クラブ”の現状

マイナビニュース
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【ママからのご相談】 
大学生の娘と小1の息子の母です。
上の子が卒業した地元の公立小学校に、この4月から下の子が通うようになったのですが、
上の子が大変お世話になった“学童クラブ”がなくなっていました。
かわりに“放課後子ども教室”という全児童対策事業と一体化した
今風の名称のクラブになっており、おやつも廃止されていました。

夫婦共働きなので、おやつも提供してくれて、
大勢の子どもが毎日入れかわり立ちかわりに出入りする形態ではない学童クラブは、
子どもの“心のケア”という面で、夜まで子どもに会えない親としては
ありがたい存在だったので、とても残念です。
学童保育と放課後子ども教室の一体化や連携は国が先頭に立って
呼びかけているようなので、いわゆる“学童クラブ”は消えてゆく運命にあるのでしょうか。

●A. 流れとしては“学童・放課後一体化”でも、
“学童”部分に特別の配慮が必要です。

こんにちは。エッセイストでソーシャルヘルス・コラムニストの鈴木かつよしです。
ご相談ありがとうございます。

ご相談者さまが指摘される通りで、
主に、「学童の待機児童を減らすことにつながる」という理由から、
いわゆる“学童保育”と“放課後子ども教室”の一体化や連携を国として呼びかけているため、
純然たる学童保育は減少する傾向にあります。

ですが、“学童”は夜まで親に会えない子どもたちにとって大切な“居場所”であり、
放課後いったん家に帰って親におやつを貰ってから好きなときに遊びにこれる
“放課後子ども教室”とは、そもそもの存在理由が違う面があり、
一体化された場合でも学童保育の部分の役割と必要性を認識し、
最大限に尊重しながら運営されるべきものと考えます。

以下の記述は、全児童対象の放課後子ども教室とは別に
独立した学童クラブが存続している東京・多摩地区のある市で
長年にわたり小児科クリニックを開業し、
地域の子どもたちの心と体の健康に向き合ってきた
小児科医師に伺ってきたお話しに基づいて、すすめさせていただきます。

●“学童保育”と“放課後子ども教室”の違い

『自治体が運営する従来からの学童保育は、
親が働いていて放課後に“保育”を必要とする子どものために
児童福祉法に基づいて設置されているもので、厚生労働省が所管しています。

日中、保護者がいない10歳未満(小学校3年生まで。一部の自治体では4年以上も可能)
の小学生児童を対象とし、子どもたちは指導員が見守る中で過ごします。
預かり時間は平日は下校時から18時がほとんどですが、
自治体によって18時半や19時までのところもあります。
夏休みなどは朝から預かってもらえて指導員が見守る中でのお昼寝の時間などもあります。
料金は東京23区内の場合でおやつ代込みで1か月4,000円から7,000円ですが、
自治体によって異なります。常時、指導員が子どもたちを見守り、指導を実施しています。

これに対して、いわゆる“放課後子ども教室”は
公立小学校に通う全児童が対象で、基本的に料金は
無料ないしあったとしてもごく僅かな利用料金のみです。
学校内や児童館で自由に好きなことをして過ごす
“放課後の遊び場解放”的な色合いが強く、
預かり時間も自治体によって異なりますが下校時から16~17時までです。
受け入れ人数があまりにも多く一日の参加人数がゆうに100名を超える場合も多いため、
ケアが行き届かないこともあります。おやつは出ません』
(50代男性/都内小児科クリニック院長・小児科医師)

●行政が“学童”“放課後”の一体化をすすめる理由と一体化の“メリット”

『行政が“学童”と“放課後”の一体化や連携を積極的に呼びかけている理由で
最も大きなものは、学童の待機児童を減らせるという利点です。

働いている親のなかには短時間のパートやアルバイトといった勤務形態の人も多いため、
「夕方の5時まで子どもに居場所があれば十分」という考え方で、
7時まで有料の“学童登録”から、同じ場所にあり5時まで無料の
“一般登録”に移行する家庭も現れてくるため、
一体化は学童の待機児童を減らすことにつながるとして、すすめているのです。 

また、児童福祉法に基づいてガイドラインにより人員配置の目安が示されている“学童”よりも
目安のない“放課後”の方が施設整備がしやすいという“本音の事情”もあります。
自治体によって形は異なりますが、東京都の世田谷区や板橋区、
神奈川県の川崎市、愛知県の名古屋市、大阪府の堺市、
長崎県の佐世保市などが一体化された事業を実施しています』(前出・小児科医師)

●一体化のデメリットと留意点

『“学童”と“放課後”はどちらも児童が放課後を
安心して安全に過ごせる場所という意味では決して対立する概念ではないため、
一体的に進めることは可能です。
ただし、“学童保育”というものの本質をわきまえた区別は必要と考えます。

たとえば、東京都のある区では学童と放課後を一体化してから
学童登録の子どもまで“おやつ”を廃止しました。
管轄する教育委員会の説明では、
「分け隔てなく対応するため」という言葉が使われていましたが、
これは小児科の医師としては看過できません。
“学童登録”の子どもたちは夜の7時頃まで親に会えないのです。
当然お腹もすいてきますし、仲間や指導員の人たちとおしゃべりをしながら
一緒におやつを食べて過ごす時間は、
子どもの心身の健全な発達のために必要です。

また、その区の別の一体型教室では、
「熱が出た」というので保護者が子どもを迎えに行ったら、
「何十人もの子どもたちが飛び回る教室の床の上にじかに寝かされていて毛布もなく、
子どもが悪寒に震えていた」という報告も、実際にあります。
これなども、純然たる“学童保育”の当時ではありえなかった問題の一例です』(前出・小児科医)

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待機児童の問題が解消されることは、もちろんいいことですが、
そのために“保育”というものの本質がおろそかになったのでは本末転倒といえるでしょう。

日中に子どもを見守ってやれない保護者にかわって
「家庭」の機能をもつ学童保育の役割を認めるべきであり、
「分け隔てなく対応する」というよりも、“学童保育部分の存在理由を尊重し、
配慮する”態度こそ一体化の時代に決して忘れてはならないのだと、
草の根の声をあげつづけていくことが大切なのではないかと考えます。
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