6歳までの子育てに必要なのは「叱る」と「ほめる」のバランス

ライフハッカー[日本版]様
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私は長年、小児科医として、たくさんのお子さん、お母さんと接してきました。「お子さん」と一言でいっても、こどもはみな一人ひとり、まったく違う個性を持っています。(中略)ですから、誰にでも通用する"正しい子育ての方法"というのはありません。その子に合わせて、お母さんはいろいろなやり方を試してみることが大切です。(「はじめに」より)
こう主張するのは、『6歳までの子育てに悩んだら読む本』(北條博厚著、あさ出版)の著者。的確で真摯な姿勢が高く評価され、現在は静岡県立特別支援学校の校医と、静岡市葵区の幼稚園の園医を勤めているという人物です。いわば、子育てについての専門家。本書においては、長い経験のなかで出会った子どもとお母さんたちを通じて知ったことに医学の知識を加え、しつけや叱り方、ほめ方など子育てのヒントをまとめているわけです。
子育ての苦労は、実際に経験してみないと理解できないもの。また、誰かに相談したくともなかなかうまくいかないという現実もあるはずです。特にほめ方や叱り方で悩む方も多いのではないでしょうか? そこでPart2「6歳までのほめ方・叱り方」を見てみることにしましょう。


聞き流されても、小言はいい続けよう


ほめたり叱ったりすることはなかなか難しいものですが、テクニック以上に大切なのは、お母さんと子どもとの間に信頼関係があること。子どもはお母さんを信頼しているので、ほめられたり、叱られたりする方がうれしいし、反省もするもの。根底にあるのは、好きな人には好かれたいという気持ちだといいます。「嫌われたくない。がっかりさせたくない」という気持ちが、自身の行動に気をつける姿勢につながるということ。すでにある人間関係のうえでこそ、ほめるも叱るも初めて効果を発揮するわけです。
しかしその反面で子どもは、お母さんのことは好きでも小言は嫌い。お母さんが叱ってもいうことをきかないのは、好きな先生に叱られたときのように素直になれないから。お母さんの気持ちを察して、「自分からどうにかしよう」とがんばるようなことまではできないことも少なくないそうです。でも、その裏にあるのは、お母さんに対する信頼感・安心感。早い話が、お母さんに甘えているということです。
だから、小言を聞き流されても、「仕方がない」と受け止めることが大切。そして、「いわないよりはずっとマシ」だとも著者はいいます。その理由は、なにもいわずに放っておいたら、子どもはなにがよくて、なにが悪いのかを学ぶ機会すら得られないことになるから。ただし、くどくどと長引く叱り方や、イライラして手が出てしまう叱り方は避けた方がいいそうです。(62ページより)

叱られて反省できるのはいつ?


「何歳から子どもを叱っていいのだろう?」という疑問は、親なら誰でも持つもの。しかし著者によれば、叱られているということは1歳を過ぎればわかるのだといいます。いつもニコニコしているお母さんが急に怖い顔をして大声を出したら、子どもも思わず手を引っ込めるもの。なぜダメなのかは理解できないながら、「それはやってはいけないことなのだ」ということを雰囲気で感じ取るわけです。
ただし、一度叱られたからといって、もうやらないかというと、そうはいかないのが子ども。また同じことをするはずなので、そうしたらまた叱ることが大切。またやったら、また叱る。その繰り返しが続くということです。
なお、「人に迷惑がかかるから」「傷つけるから」「社会のルールだから」という理由で叱ったとき、それが理解できて、悪いことをしたと反省できるようになるのは4~5歳くらいだといいます。(69ページより)

叱ることはムダにならない


いってみれば、何度叱っても子どもがまた同じことをするのは仕方がないこと。お母さんは、子どもにいろんなことを教えるための手続きとして、生きていくために必要なことを叱ることを通じて教えている。でも、「叱ったらわかってくれるだろう」というのは、お母さんの期待にすぎないのだそうです。子どもはまだ、それを理解したりするための能力が育っていないかもしれないから。
それに、どれだけいって聞かせたとしても、自分が「イヤだ」と思えばしないのが普通。だからお母さんはそのつど、叱ったり、ほめたり、おだてたりしながら子どもにやらせなければならないわけですが、「しかる状況をいかに少なくするか」の工夫も必要だとか。
4、5歳になると、人との関わり方や人ともめないための方法を理解して身につけていくそうです。たとえばブランコで遊びたいとき、もし先に友だちが使っていたら、順番を待たなければなりません。そんなときにルールを守ることで、相手とけんかしないで仲よく遊べるのだということを、自ら理解し、行動できるようになるということ。
しかし、これを2、3歳の子どもに教えたところで理解は困難。なぜなら2、3歳は集団で砂遊びをしているように見えても、ひとりひとりがバラバラの「平行遊び」の世界だから。大人が介入して楽しみを感じさせつつ、同時にルールを教えることが求められるわけです。(71ページより)

一本調子で叱っても響かない


叱っているのに効果が上がらず、何度も叱らなければならない。それは、まだ子どもには荷が重いからなのかもしれないと著者は分析しています。理解できないのなら、何度叱ってもできるようにならないのは当然。しかし、だからといって諦めるわけにはいかず、つまり子どもが生きていくために、必要なことなら叱ってでもわからせないといけないことがあるということ。
大切なのが、やり方を変えてみること。いつも同じようなことばで叱っていたら、子どもも慣れてくるもの。それでも繰り返しいわなければならないのなら、一本調子にならないように、お母さんが工夫することが大切だというわけです。そこで、何度も叱らなければならないことを前提に、長々と叱るのをやめ、一回一回を短く、強く叱ってみる。それでも子どもが同じことを繰り返し、効果がないのなら、「この子にはまだ早かったのかもしれない」と考え、別な方法を考えるということ。
大切なのは、子どもの心に届く働きかけをすること。そして、同じ叱り方を繰り返さないようにすることが大事だということ。「これくらいはわかるはず」というのは、大人のペースを押しつけているだけ。子どもを成長させるためには、子どものペースに合わせ、やり方を変え、いい方を変えながら、叱る工夫をすることが大切だということです。(74ページより)

子どもは「ほめてもらう」ことで愛情を確認している


親が子どもをほめるのは、子どもがやっていることを見て「うれしい」と思ったとき。あるいは、「こうやってほしいな」と期待した行動をとってくれたときにも、ほめたくなるのではないでしょうか? では、ほめられたとき、子どもはどんな気持ちなのでしょうか? このことについて著者は、「お母さんに喜んでもらってうれしいという以上に、『お母さんは、自分を愛してくれている』と感じているのだと記しています。つまり子どもは、ほめることを通し、お母さんの期待する行動を学習し、愛情を確認しているということ。だから、たくさんほめてあげることが大切だというわけです。
ただし、あまりに表面的なことだけをほめすぎると、「ほめられてうれしい」という気持ちが次第に「ほめられないなら、やらなくていいや」というように変わってしまうことがあるのだとか。それでは単にわがままな子になってしまうだけ大切なのは、子どもの自立と社会性をうながすようなほめ方をすることだといいます。
子どもがかわいいからといって喜ぶことだけをいい、やりたいようにやらせてほめるのは、かえって自立心を奪うようなもの。人とうまく関わりを持てるようになり、仲よく暮らしていけるように育てることを、子育ての大きな目標にすべきだということです。具体的には、子どもを喜ばせるためにほめるのではなく、「これをやったら、人と仲よくなれる」「こういったら、人に喜んでもらえる」と気づけるようなほめ方をするということ。ちょっとしたひとことや行動を拾い上げ、少し大げさにほめてあげることで、子どもは人への気の遣い方、喜んでもらう方法を学んでいけるということです。そのためには、結果に対して不満足であっても、がんばったことを見つけてほめてあげることが大切だといいます。(87ページより)



文章の端々からは、長く子どもと向き合ってきた人ならではの愛情を感じることができます。だからこそ本書はきっと、子育てに疲れ気味のお母さんの力になってくれるはず。読んでみれば気持ちが楽になり、新鮮な気持ちで明日の子育てに向き合えるようになるかもしれません。

(印南敦史)
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