待機児童問題 詰め込み保育に悲鳴


佐賀新聞
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待機児童解消が夏の参院選の焦点になる中、政府は「1億総活躍プラン」で保育士の賃上げなど処遇改善を打ち出したが、現場では保育の「質」低下への懸念が高まっている。厚生労働省が3月にまとめた緊急対策が、1人の保育士が見ることができる子どもの数などを定めた保育士の配置基準を事実上緩和するよう自治体に求めたためだ。「人手不足でもう限界。これ以上子どもを詰め込もうとしないでほしい」。保育士らは悲鳴を上げている。【共同】
■1対6
 「もぐもぐかんで食べようね」-。名古屋市の私立認可保育園。給食の時間の1歳児クラスでは、保育士3人が子ども12人を見ていた。保育士1人につき子ども6人を見る国の最低基準より手厚い園独自の配置だが、平松知子園長(54)は「子どもの発達や震災時の対応を考えると、これでもぎりぎりの配置」と考えている。
 国は保育施設の面積や保育士の人数に基準を定めているが、緊急対策では国より厳しい基準を独自に設定する一部自治体に、臨時的に「1人でも多く」児童を受け入れることや、0~2歳児向けの「小規模保育」の定員を広げ、3歳児にも対応することを求めた。
 平松園長は「政府は予算を出し渋って規制緩和でやり過ごそうとしているが、子どもの面倒を見た経験があれば現実的でないことが分かるはず。保育事故が起きたときや選挙の前だけでなく、子どものことをもっと考えてほしい」と訴える。
■置き去り
 東京都内の認証保育園にパートで勤める保育士の女性(49)は最近、系列保育園の保育士が子どもを連れて公園に散歩に行ったときに、1人を残して帰ってしまう“事件”があったと知らされた。すぐ保護されて事なきを得たというが、保育士が人数確認という基本を怠ったことに驚いた。
 女性の園でも慢性的な人手不足が続く。この4月に入ってきた職員は1週間で辞めてしまった。一人一人の負担が大きくなり、子どもが泣いても上の空の保育士がいたり、保育士同士の関係がぎくしゃくしたりする状態だ。発達障害の疑いがある子どもがいるが、専門的なケアに時間を割く余裕がないという。
■数字だけ
 規制緩和策について、厚労省は「国の基準を守りながらの弾力化。質の担保を踏まえている」(塩崎恭久厚労相)との立場だ。一方、都内の保育園に勤める男性保育士(37)は「数字でしかものを考えていない。国の基準は何を守るためのものなのか」と感じている。
 保育事業大手のJPホールディングスの荻田和宏社長も「規制緩和は増収増益の要因になるかもしれないが、安全とのてんびんにかけるわけにはいかない」と否定的。保育問題に詳しいジャーナリストの猪熊弘子さんは「保育士の仕事がさらに大変になり、人手不足を助長させるだけ。あまりに現場の状況とかけ離れている」と指摘している。
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