出産や育児教育を実践 学生の「ライフプラン」への意識育む


毎日新聞
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経済成長の担い手として働き、出産・子育てもこなして少子化に歯止めを−−。今の大学生には、社会の期待がのしかかっている。18歳人口の減少に直面する大学にとっても、少子化対策は大きな課題だ。卒業後の進路を具体的に考える前に、出産や育児を踏まえたライフプランに目を向けさせる教育が、大学で広がっている。
     ●仕事「低空」の時期あっても
     「35歳以降に出産を考える人が多いですが、その時点では卵子の数がかなり減ってしまいます」「妊娠力には個人差があります。過信せずチェックすることが大切」。順天堂大学医学部産婦人科学講座(東京都文京区)の北出真理教授の言葉を、学生たちが真剣に書き留める。今月21日、同大が初めて開催した妊活とキャリアを考える学生向けセミナーには、男子2人を含む23人が参加した。
     小児科学講座の本田由佳非常勤助教が、仕事と子育てを両立させた自身の経験を踏まえ「仕事が低空飛行になる時期があってもいい。人生の目標を見据えていさえすれば、また浮上できます」と助言すると、「子供を産むタイミングは?」「不妊症にならないために、今やっておくべきことは?」と次々に質問が飛んだ。
     国際教養学部2年の小澤舞里子さんは「皆も同じ疑問や不安を抱いていたことが分かり、安心しました。今の時期に正しい知識を得られて、よかったです」と笑顔を見せた。
     セミナーを企画した同大男女共同参画推進室の奥原順子さんは「妊娠や出産、育児が専門の教員が医学部や医療看護学部にいながら、学内で学生に話す機会はなかった。男女を問わず将来、長く働きたいと思っている学生が多いので、このセミナーを機に、将来のワーク・ライフ・バランス(仕事と生活の両立)を考え始めてほしい」と話す。
     ●共働き世帯に「就業体験」
     千葉大学教育学部(千葉市稲毛区)では来月、共働きの子育て家庭に学生を派遣するインターンシップを初めて実施する。平日の夕方2回、3歳〜小学6年の子供がいる同市内の家庭を2人1組で訪れ、育児を体験させる試みだ。結婚や子育てを含めたキャリアのあり方を考える「キャリア教育」の授業を履修中の1〜4年生34人が参加予定だ。
     授業を立案した藤川大祐教授は「少子化に加え地域のつながりも薄くなって、身近に子供がいない社会になった。教育学部の学生は小学校などで子供に接する機会はあるが、家庭での子供を知らない」と指摘する。ロールモデルがいないので「子供を持って働くなんて無理」と言う学生も多い。「働く親の姿に触れ、家で子供がどう育つのかを目の当たりにすることで、自分のキャリアを考えると同時に、保護者への視点も養える」と藤川教授は狙いを話す。
     今回のインターンシップをコーディネートする堀江敦子さんは、子育て体験を希望する学生と共働き家庭を結びつける会社を6年前から運営する。「500人以上の学生を派遣してきたが、終了後は親のいいなりではなく自分で判断するようになるなど、どの学生も成長する」と話す。
     ●キャンパス内に付属こども園
     「働く親と子供」をキャンパス内に取り込む動きも起きている。昭和女子大学(東京都世田谷区)は付属幼稚園を改築し、今年4月「付属昭和こども園」を開園した。「地域の保育需要に応えることに加え、仕事を終え子供を迎えに来る大人を日々目にすることで、学生に将来を考えるきっかけとしてほしい」と坂東真理子理事長は背景を説明する。
     お茶の水女子大学(文京区)も同月、区の委託を受け、全国初となる「公設国営」のこども園を開いた。「日常的に乳幼児と出会ったり関わったりする経験が、卒業後の生活の基になる」(宮里暁美園長)と、学生への教育効果にも期待を寄せる。
     「今後15年間のライフキャリアを考えさせると、妊娠・出産が抜け落ちたプランを提出する学生が多い。キャリアをデザインするための基本的な“出産リテラシー”が欠けているのではという危機感を持った」
     昨年10月、大阪大学(大阪府吹田市)で「出産リテラシーセミナーシリーズ 出産と明日の視点」と題したシンポジウムを開いた同大国際教育交流センターの伊藤ゆかり准教授は、開催の経緯をこう話す。昨年の合計特殊出生率(1人の女性が生涯に産む子供の数の推計)は1.46と21年ぶりの高水準となったが、第1子出産時平均年齢は30.7歳で、過去最高を更新した。大学の「出産・育児教育」へのニーズはますます高まりそうだ。【上杉恵子】
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