<被災地水産会社>社内に保育施設 求職増


河北新報
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東日本大震災後、人手不足が深刻な東北の水産加工業界にとって、モデルケースになりそうな取り組みが宮城県石巻市で始まった。同市でタラコ製造を手掛ける湊水産が着目したのは、子どもを抱え、働きたくても働けない女性たち。社内に保育施設を設けて若干名のパート従業員を募集したところ、1カ月足らずで約20人が応募した。ただ、運営費負担は重く、持続可能な態勢づくりが課題になっている。(報道部・藤本貴裕)

<1ヵ月で20人>
 「ただいまー」。6月下旬、湊水産本社に保育士と子どもたちが散歩から帰ってきた。社員らが笑顔で迎える。応接室を改装したキッズルームと木村一成社長(57)らがいる事務スペースの間に仕切りはない。
 保育施設「結(ゆい)のいえ」は今年3月、東京の一般社団法人が市内の別の場所で運営していた認可外保育施設を同社が引き継いで設置した。水産加工業者が企業内保育施設を設けるのは宮城県内初。保育士は5人。定員は9人で、一時保育の利用を含め従業員や地域の子ども約20人が登録する。
 同社は同じころ、退職した従業員3人の補充のためパートを募集した。求職者は3日間で9人、約1カ月で約20人に上った。
 「あり得ない」。木村朱見店長(52)は反応の良さに驚いた。業界では求人を出しても長期間応募がないケースが多いからだ。新たに20~30代の6人を採用し、約50人態勢となった。
 石巻公共職業安定所によると、管内の4月の有効求人倍率は1.71倍。水産加工は3.39倍で製造業の中でも特に高い。震災後に離職し、ほかの業種に移ったり、内陸に転居したりした人が多く、各社とも従業員確保は困難を極める。

<本業から補う>
 施設を利用する従業員の評価は上々だ。1歳の次女を預ける庄司恵さん(36)は「同居する母が体調を崩した。保育施設がなければ、仕事を辞めざるを得なかった」と明かす。新採用の今藤美絵さん(26)も1歳の長女と出勤。「別の認可保育所を落ちたばかりだった。保育施設の存在は大きい」と喜ぶ。
 石巻市の待機児童は増加傾向にある。4月1日時点で62人。昨年は45人、2014年は21人で、復興が進み、職を求める女性が増えていることがうかがえる。
 保育施設のニーズは高いが、運営費の負担は大きい。認可外のため行政からの補助はゼロ。保育士の人件費は保育料では賄えず、本業の利益で補っている。
 それでも木村社長は「従業員を確保できないのは企業として致命傷だ」と強調。「地域や同業者の子を受け入れながら来年度の認可を目指す」として新たな運営態勢を探っている。
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