社説[保育所の民営化]子ども優先に議論せよ


沖縄タイムス
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 南城市八重瀬町は、それぞれ自治体に唯一残っている公立保育所を2017年度に民間運営に移行する方針だ。実施されれば、両市町では公立保育所がゼロになる。県内自治体では初めての事態だ。

 保育所民営化の波は、県内でも広がっている。沖縄タイムスが県内全41市町村を対象にしたアンケートで、13市町村が計48カ所の公立保育所を民営化したことが分かった。これまでに最も多い那覇市で9カ所、名護市が7カ所、南城市が6カ所、八重瀬町が5カ所を民営化。渡嘉敷村は具体的な計画はないとしつつ、島内唯一の公立保育所の民営化を「検討したい」とした。
 保育所の民営化の背景には、国・地方財政の三位一体改革に伴う自治体の財政難がある。待機児童の解消や夜間・休日保育などの新たな保育ニーズに対応する意図もある。実際に、特色ある保育内容で評価を得ている認可保育園もみられる。
 だからといって、公立保育所をゼロにして構わないと考えている自治体は多くない。アンケートでも、那覇市、石垣市、糸満市、宮古島市、今帰仁村などが公立を1カ所以上を残すと回答した。沖縄市は5カ所残す意向だ。
 なぜ、公立保育所が必要なのか。専門家は、民間では受け入れが難しい障がい児らを預かるなど、公立保育所は「最後の砦(とりで)」だと指摘する。那覇市なども、公立保育所を地方自治体が担うべき保育の拠点として位置づけている。
 民営化が進む中、逆に公立保育所は、地域全体の保育の質向上を図るけん引役として、より重要な役割を帯びる。
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 その中で公立保育所を残さない方向で動いている南城、八重瀬の両市町。
 南城市はそもそも最後の1カ所については公立として残す方針だった。それが昨年、民営化にかじを切った。
 8月にも事業者の公募を予定し、今月19日からは市民との意見交換会を4地区で開き、市の方針を説明する。ただ、「障がい児らが安心して通えるセーフティーネットとして残してほしい」とする市民団体の主張とは平行線をたどったままだ。
 一方の八重瀬町。町内に一つだけ残る公立保育所の民営化を話し合う委員会をスタートさせた。過去の委員会では認可保育園の代表をメンバーに入れたのに対し、今回は「立場が違う」として委員にすることを見送った。認可園側が公立保育所の存続を求めたためだとみられる。
 保育問題に熱心に向き合ってきた市民団体や、地域の保育の現場を詳しく知る関係者の声に背を向けるような行政の姿勢には疑問が残る。
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 厚生労働省の「保育所保育指針」は、保育所の役割として「子どもの最善の利益を考慮し、その福祉を積極的に増進することに最もふさわしい生活の場」と位置づける。
 子どもの最善の利益を考えれば、果たして公立保育所を自治体からなくしていいのか。さまざまな面で支援が必要な家庭に行政としての責任を果たせるのか。ゼロに踏み切る前に議論を深める必要がある。
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