「1歳半までに10種24回」子どもの予防接種を賢く乗り切る方法


朝日新聞dot様
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予防接種は子どもの命を守るために必要不可欠な行為だが、親にとってはスケジュールのやりくりが悩ましい。打つべきワクチンの種類や回数の変更があればなおさら。知っておくべきポイントをまとめた。

「外回り中、会社に内緒で子どもを予防接種に行かせたことは何回かあります。上司の理解があっても、そう何度も“予防接種のために半休取ります”とは言いにくくて……」
 都内の会社で営業職として働く女性(40代)は、現在2歳の長女を生後4カ月から保育園に預けて職場復帰。子どもの予防接種のための時間のやりくりに苦労した経験を振り返った。
 仕事と子育ての両立を目指す親が避けては通れない関門の一つが、子どもの予防接種だ。種類も多く、複数回の接種が必要なものがほとんど。予防接種は通常診療と別の時間帯に行うことが推奨されているため、医療機関が指定する「ワクチンの日(時間帯)」に予定を空けなければならない。ワクチンは高価で有効期限が短いため、予約分だけを用意するところが多く、「時間が空いたから」といって、すぐに受けられるわけではないのだ。
 今年10月からは、B型肝炎ワクチン(以下、HBワクチン)の定期接種が始まり、2月には、日本小児科学会が日本脳炎の感染リスクの高い場合、通常3歳から始まるワクチン接種を前倒しし、生後6カ月からの接種を推奨するとした。
 HBワクチンは世界保健機関(WHO)が推奨する、小児に対する重要ワクチンの一つ。急性B型肝炎の予防はもちろん、肝炎ウイルスの持続感染(キャリアー)を防ぎ、慢性肝炎や肝硬変、肝がんの発症リスクを減らすことが最大の目的だ。川崎市健康安全研究所所長の岡部信彦氏はメリットをこう説明する。
「まず“がんになるかも”という不安を生涯抱えながら暮らす人たちを減らせます。また、キャリアーの女性では妊娠中におなかの子に感染する“垂直感染”が起こることがあるため、結婚や妊娠の際や日常生活の中で、周囲の理解不足による偏見に苦しんだり、“他人にうつすかも……”という不安にさいなまれたりする人もいます。そういう方たちをなくすこともできると思います」
 垂直感染については、わが国には「B型肝炎ウイルス母子感染予防対策」があり、キャリアーの母親から生まれた子には、出生後速やかにγグロブリンとHBワクチンを投与して、ウイルスの持続感染を防ぐ治療を行う。この方法により、世界でもトップクラスの感染予防効果を上げている。
「さらに、ワクチンの定期接種が始まったことで、今後は家族や集団生活の中での水平感染も防げるようになる。わが国での年長者のB型肝炎ウイルス感染のほとんどは、性行為がきっかけです。HBワクチンの定期接種は、将来の性感染予防の布石になる可能性も含まれています」(岡部氏)
 日本脳炎は、日本脳炎ウイルスを持つ蚊に刺されることで発症する感染症だ。ウイルスが体に入っても多くは無症状で、症状が出るのは千人に1人程度だが、発症すると重大な脳の症状を引き起こし、死亡率は20~40%と極めて高い。
 接種が前倒しになった背景について、「NPO法人VPD(ワクチンで防げる病気)を知って、子どもを守ろうの会(以下、VPD会)」副理事長で、おおた小児科(千葉市美浜区)院長の太田文夫医師は言う。
 定期予防接種にHBワクチンが増え、日本脳炎ワクチンを前倒ししたことで、0歳で打つべきワクチンは「定期接種」が6種類、「任意接種」が1種類となった。1歳から開始できるものも含めると、計10種類だ。「少なくとも1歳半までに、日本脳炎ワクチンも含め24回の予防接種を受けてほしい」(太田医師)という。
 スケジュールの問題を解決できる方法の一つに同時接種がある。2種類以上のワクチンを1回の通院で済ませるもので、世界的には一般的だという。上の図は、VPD会がすすめる0歳児の予防接種スケジュールだ。
「保育園に入る前に一通り済ませるために、6種類のワクチンを一度に打つ例も。同時接種なら1歳半までに定期、任意の予防接種を無理なく終えることが可能です」(同)
 東京都葛飾区の永寿堂医院(小児科・内科)は、毎週木曜日を「ワクチンの日」に充てている。記者が訪ねた日も、多くの親が子どもの予防接種で来院していた。
 診察室に入った親子に、院長で小児科医の松永貞一医師が必ずするのは、「今日は何のワクチンですか?」という質問だ。これに対し保護者は、「今日は日本脳炎とインフルエンザです」「2回目のヒブと、“プレベナー”(小児用肺炎球菌ワクチンの製品名)です」など、スラスラ答える。
 診察と注射にかかる時間は1、2分。流れ作業のように淡々と進められ、不安を口にする保護者はいなかった。この日、ヒブワクチンと小児用肺炎球菌ワクチンを接種した4カ月の男の子の母親(30代)は言う。
「先生からは、“命を守る危険度の高い病気のワクチンから打つ”と教わりました。1人目なのでわからないことが多かったけれど、先生がワクチンのスケジュールを組んでくれているので、不安はありません」
 大学病院では、治療した重症のはしかの子の死亡を何人も経験し、ワクチン外来も担当した松永医師。同院では乳児健診時に1人1時間ほどかけて、予防接種の正しい知識についても教えている。松永医師は言う。
「予防接種の目的は、お子さんをワクチンで防げるはずの感染症で死なせないこと。一方で、接種後に何らかの副反応が出ることもあるので、正しい理解の上で受けることが重要です」
 どのワクチンも接種後しばらく間隔を空ける必要があり、熱などの症状があれば打てないため、スケジュールを組み直す必要がある。たいへんかもしれないが、予防接種をしないまま麻疹などにかかったら、重症になる心配だけでなく、親は子どもの看病のために仕事を休まねばならず、経済的な損失も大きい。
 子どもの予防接種では接種時期や接種回数が頻回に変わることも珍しくないため、小児科医と常に情報共有をしていくことが大事だ。例えば、VPD会のホームページでは、同会で情報を共有している会員(小児科医)をエリア別で紹介している(http://www.know-vpd.jp/mbr_list_index.htm)。


「近年、患者報告数は著しく減って、ここ10年間では年間10人弱の報告があるだけです。ただ、2015年には千葉県で生後11カ月の幼児が発症したこともあり、推奨する接種時期を早めたのです」
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