離婚やDV増のツケ…無戸籍者「全国に最低でも1万人はいる」


産経ニュース様
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 関東地方のある中学校の会議室。「九九の6の段、次の授業までに覚えてきてね」。先生が優しく語りかける。生徒は介護職員の冬美さん(34)=仮名=1人だけだ。
 8月から週1回、国語と算数の授業を受けている。「最初はどれくらいの学力があるのか、私も先生も分かりませんでした」
 冬美さんは子供時代、小学校も中学校も通ったことがない。戸籍がなかったからだ。幼稚園を卒園後、近所の目を気にしてランドセルだけは買ってもらい、遠い私立小学校に通っているふりをした。それも続かず、間もなく引っ越した。
 それからは家で家事をしたりテレビを見たり。たまの外出はあったが、10代後半からは引きこもりに近い状態になった。「友達は1人もいません。外の人と接したのは母親の友人くらいです。全部で4、5人」。冬美さんが戸籍を得て、介護施設で働くようになってから、1年ほどしかたっていない。
 冬美さんが自分の「無戸籍」にうすうす気がついたのは平成19年ごろ。テレビで「無戸籍」を扱う番組を見て「自分と同じ状況だ」と思ったからだ。だが、そのときはまだ引きこもり状態で、「怖くて自分で誰かに相談しようとは思わなかった」という。
 26年になって、冬美さんは意を決して、この問題に取り組んでいる「民法772条による無戸籍児家族の会」代表の井戸正枝さん(50)に連絡を取った。
 子供が無戸籍になる理由はいくつかある。もっとも多いのは「嫡出推定」の制度が壁となるものだ。嫡出推定は民法772条で規定され、離婚後300日以内に生まれた子は前夫の子と推定。法律的に前夫の子と推定されるのを避けるために、出生届を出さないケースが多い。
 最近増えているとみられるのは、DV(ドメスティックバイオレンス)が関係しているケースだ。
 冬美さんの場合、母親が元夫からDVを受け、別居状態となったが離婚もできず、別のパートナーとの間に生まれた冬美さんの出生届を出さなかった。
 暴力から必死で逃げてきたのに、離婚のために連絡を取れば居場所がばれる。が、そのまま出生届を出せば、法的に元夫の子となってしまうからだという。

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 行政も無策だったわけではない。19年以降、戸籍がなくても住民票作成や婚姻届、義務教育などが受けられるようになった。
 法務省が把握する今年10月時点の無戸籍者の数は694人。文部科学省の調査によると、無戸籍で義務教育段階の子供は今年3月時点で191人。2年間未就学だった1人を除いて小中学校に就学しているが、77人は学用品代などの就学援助を受けるなど、経済的に厳しい状況にあるという。…
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