駅前で子どもをお預け 共働き世帯、保育所送迎を軽減


日本経済新聞夕刊様
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 駅前で子どもを預かり、郊外の保育所へバスで送迎する「駅前送迎保育」。待機児童に悩む自治体が導入し始めている。親が遠くの保育所に送迎しなくても、通勤途上で預けられる。利用する共働き世帯に好評だが、子どもの様子が見えにくいといった課題も残る。
 「やったー、青バスだ」。午後3時半、東京国際展示場(東京・江東)近くのビルに真っ青なバスが到着すると、歓声が上がった。声の主はビルの3階にある保育所「江東湾岸サテライトナーサリースクール」の園児たちだ。彼らを乗せたバスは地下鉄有楽町線の豊洲駅に向けて出発。埋め立て地を抜け10分ほどで到着した。バスを降りた園児は駅前の高層マンションの1階にある分園で親の迎えを待つばかり。遊びながら待機する。
■送迎費用は補助
 江東区が2014年4月から始めたサテライト保育事業の様子だ。本園のある国際展示場周辺は、用地はあるが保育需要が少ない。一方、分園のある豊洲地区は高層マンションの建設ラッシュで、保育需要が急増しているものの用地は乏しい。両地域をつなぐことで施設の広さと家から連れていく不便さを補い、待機児童を減らす狙いだ。
 区は事業者に用地を無償貸与し、送迎費用などを補助する。運営する社会福祉法人高砂福祉会(千葉県流山市)は朝と夕、本園と分園の間を赤、青、ピンクの3台のバスで数便に分けて約200人を送迎する。安全面を考慮して0~1歳児は終日分園で預かり、2歳児以上を本園へ送迎する。
 利用者の多くは通勤に豊洲駅を使う周辺マンションの共働き世帯。開始前の13年4月、同区の待機児童は416人だったが、開始後の14年4月には315人に減り、早速効果が出た。
 評判は上々だ。3歳の娘を預ける大手メーカーの研究員、飯田亜美さん(36)は「豊洲は保育所の激戦区。育休中、子どもが保育所に入れず、復職できなかったらどうしようと不安だった。駅前で預かってくれるので、通勤途上に立ち寄ることができ、非常に助かる」と安堵する。
 親たちの要望が高まり、送迎保育を始めた例もある。東京都町田市で2つの認定こども園を運営する学校法人正和学園だ。2園とも広い庭で伸び伸び遊べる点が人気。だが、町田駅から遠く、駅の利用者や周辺住民から「送迎バスを出してほしい」との声が多数寄せられた。そこで駅近くのビルに送迎保育ステーションを設け、16年4月から3歳児以上を対象に始めた。現在、18人が利用する。
 駅近くのマンションから小田急線で東京都新宿区の小学校へ通う教員の岡野志保さん(43)は4歳の息子を預ける。「保育環境のいい同こども園に預けたいと思っていたが、遠くて自分で送迎するのは無理だと諦めていた。駅の近くに送迎拠点ができてうれしい」と歓迎する。
 正和学園のこども園がある忠生地区は古い団地が立ち並び、定員に空きのある保育所が多い。これ対し町田駅周辺は新しいマンションが建ち、保育需要が増大している。両地域間の送迎によって需給のバランスがとれる。町田市も駅近くのビルの一室を確保。10月から事業者に運営を委託して、忠生地区の複数の保育所へ送迎する予定だ。
 16年4月に全国最多の1198人の待機児童を出した東京都世田谷区は、小田急線の成城学園前駅近くに保育ステーションを設け、4月から駅前送迎保育を始めた。社会福祉法人嬉泉(東京・世田谷)がステーションで預かった3歳児以上を、駅から離れた3つの系列保育所に送迎する。このほか待機児童が多い大阪市も早ければ18年度中に数カ所で始める予定だ。
■スマホに画像送信
 親の負担が軽くなり待機児童も減る駅前送迎保育は一見、いいことずくめだが、課題はある。親が保育所に出向かないため、担任の保育士と話したり自分の目で子どもの様子を確かめたりする機会が減ることだ。子どもの異変や体調の変化を見逃す恐れがある。
 対策として07年から導入した千葉県流山市は週1回程度、親が直接保育所に行くよう要望する。町田市も週1回程度、世田谷区は保育所の行事や保護者会に出席するよう求めている。
 ただ、仕事が忙しく、なかなか行けない親は多い。そんな人向けに開発されたのが、保育所内の様子を写した画像をスマートフォン(スマホ)で見られるアプリだ。高砂福祉会は4月から親のスマホに画像を送るサービスを始めた。
 保護者でつくる市民団体、保育園を考える親の会(東京・豊島)代表の普光院亜紀さんは「スマホのアプリは便利で、ないよりはあったほうがいいが、頼りすぎは良くない。基本は自分の目で子どもの様子を確かめること。できるだけ保育の現場に足を運び、担任の保育士と話をしてほしい」と訴えている。


(高橋敬治)

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