公営住宅空き室 小規模保育スタート


大阪日日新聞様
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 公営住宅の空き室に小規模保育施設を開設する取り組みが大阪府内で始まっている。保育の用地確保が各地で課題になる中、行政財産を有効活用しようという試みだ。待機児童を減らす狙いだが、ここでも近隣住民の反対で開設できない事態が生じている。

 大阪府交野市の京阪郡津駅から歩いて約5分。幹線道路沿いにある府営住宅1階の玄関ドアに「きらきら保育園」の看板が掛かる。
 「今日もニコニコ楽しく過ごしましょう」「はーい」。保育士の呼び掛けに園児が大きな声で答え、ピアノに合わせて歌い始めた。
 同じ住宅の女性(67)は「子どもたちと出会う機会が増え、かえって元気をもらっている」と喜ぶ。

■自治体に打診

 同園は民間業者の運営で4月に開所した。4DKの壁を取り払い、0~2歳の13人を預かる。壁や天井に防音シートを施し、窓ガラスや玄関ドアも二重にした。家賃は年間24万7千円と格安だ。
 事務長の足立修司さん(32)は「ビルのテナントを借りると費用がかかるので助かる」と話す。
 府営住宅を活用した小規模保育施設は、交野市と島本町で運営。府は他の自治体にも活用を打診している。
 府によると、府内の待機児童は4月で1190人(前年同期比17%減)。こうした施設整備も奏功しているが、大阪市の待機児童は2年連続で増えるなど市町村別でばらつきがある。

■高いハードル

 「石にしがみついてでも頑張る」。大阪市の吉村洋文市長は公式ツイッターで、2018年4月に「待機児童ゼロ」を目指す意気込みを強調した。
 都市部で新たな用地を探すのは難しい。そこで、吉村市長は市営住宅での開設を検討するよう関係部局に指示。北区や天王寺区などで空き室を探し、順次開所する方針だ。
 しかし、ハードルは高い。園児の安全面から1、2階の低層階が条件となるほか、駅近くへの開設を求める保護者の声も多い。保育士の人材確保も課題だ。市子ども青少年局は「どれだけ部屋を確保できるか見通せない」と頭を悩ます。

■住民の理解

 住民の反対で保育園を開設できない例が全国各地で相次ぐ中、公営住宅での小規模保育もうまく進んでいるわけではない。
 吹田市はニュータウンの公営住宅で昨年10月、計5室に小規模保育施設を開設する計画だったが、住民説明会で騒音を懸念する声が上がり、断念した。島本町でも住民の同意を得られず、開設地を変更した経緯がある。
 「静かな暮らしが壊されかねない。送迎時に事故が増えないかも心配」。予定地だった住宅の近くに住む女性(71)は声を潜める。
 府が昨年7月に実施した全43市町村への調査では、37自治体で保育を巡る苦情やトラブルがあった。原因として「音」が最も多く、保護者の送迎時の路上駐車など「交通」も目立つ。
 大阪市の担当者は言う。「住民の意見を踏まえて開設場所を決めなければ。ただ、小規模保育でもまったく音が出ないわけにはいかない。ある程度は理解をいただきたい」
マイナスイメージ先行 自治体側も十分説明を
 山縣文治関西大教授(子ども家庭福祉学)の話 3歳未満児が少人数集まっても、音はそれほど大きくならないが、子どもの声はうるさいものだというマイナスイメージが先行している。次世代の人口が減少すれば、年金や介護を支える制度の財源も危うくなることを住民側は意識しなければならない。自治体側も事前説明が不十分であり、既に開園した小規模保育の現地を見てもらうなど工夫が求められる。

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