保育士確保できず「本末転倒」認可保育所が休止

子供たちを見守る保育士のイラスト
読売オンライン様
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 横浜市鶴見区にある認可保育所が3月初め、保育士の確保ができないとの理由で、今年度限りでの休止を決めた。

 「待機児童」対策で保育所の新設が進み、保育士の需要が急増したことで、保育士不足は神奈川県内のほかの地域でも深刻だ。自治体による確保競争も激化している。

 「求人広告や人材紹介会社に少なくとも200万円以上を投じた。就職イベントなどにも参加した。でも、どうしても集まらなかった」。休止する保育所を運営する法人代表の男性(30)は、保育士の確保に奔走したこの1年間を苦渋の表情で振り返った。

 保育園によると、園長の転籍が発端で園内に動揺が広がり、この1年間、保育士らが次々と退職の意向を示した。求人活動は実らず、園の休止を決めた。市によると、退職するのは保育士14人のうち10人。1、2歳児の19人は1年間の限定で保育を続け、3~5歳児の37人は3月いっぱいで転園を迫られた。

 ◆「産後も仕事」増加

 保護者が保育を希望する県内の0~5歳児の割合は、この10年間で18%から35%に増加した。認可保育所の数は894か所から1585か所、働いている保育士も1万3167人から2万9693人にまで増えた。県の試算では、2019年度には必要な保育士数が3万2439人にまで拡大する。

 保育需要の高まりは、結婚や出産後も仕事を続ける女性が増加したためとみられている。子育て世代の多い鶴見区などの横浜北部や川崎市などでは特に需要が高い。鶴見区内の別の認可保育所の女性園長(53)は「保育士は引っ張りだこの状態。どの園でも不足している」と話す。人材派遣会社の紹介料は年収の2割から2・5~3割に高騰し続けているといい、園長は「子供一人ひとりのペースを大事にして保育したいが、人手不足で、体力的にも精神的にも余裕がない」とこぼした。

 ◆各自治体が施策展開

 各自治体は保育士を確保しようと施策を展開し、奪い合いの様相だ。

 東京都が1人あたりの給料に月4万4000円相当を上乗せする補助を始めたのに対し、横浜と川崎市は18年度から、国の制度で助成を受けていない経験年数7年以上の保育士に月額4万円、2万円をそれぞれ上乗せする。横浜市は保育所の求人活動でもコンサルタントを派遣するなど手厚い支援に取り組む。また、すでに保育士向けの家賃補助制度も設けている。

 自治体が熱い視線を送るのが、結婚・出産などで現場を離れた「潜在保育士」だ。その数は、県に登録している保育士約9万3000人の半数以上の約6万5000人にのぼる。ただ、県が潜在保育士に実施した13年度のアンケートでは、「育児との両立」(32%)を復帰の不安材料にあげた回答が最も多く、いかに国や自治体が支援するかが課題となっている。

 休止が決まった鶴見区の保育所に3歳の女児を預けていた保護者は訴えた。「保育所の新設を進めることも大事だが、保育士が不足していては本末転倒。一番の犠牲となるのは子供。今回の事案を特別なケースと考えないでもらいたい」(鬼頭朋子)

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