イヤイヤ期よりブラブラ期…学者提案に保育現場から反響

子供たちを見守る保育士のイラスト
朝日新聞様
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 何をするのにも嫌がる2歳前後の時期を指す「イヤイヤ期」。朝日新聞は新しい呼び方を募集しました。北海道大の川田学准教授が提案するのは、「ブラブラ期」。世界の実情にも目を向け、語ってもらいました。

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 5年前、保育専門誌にイヤイヤ期をブラブラ期と言い換えては、と提唱する文章を書いたところ、現場の保育士などから「ブラブラ期をテーマに講演してください」という依頼が相次ぎました。いまも全国の保育団体から依頼が絶えず、大きな反響に私自身が驚いています。

 心理学でも保育現場でも、2歳前後については「第一次反抗期」という呼び方が有力で、90年代ごろからは、育児雑誌でイヤイヤ期という言葉を目にするようにもなりました。ただ、乳幼児期の発達を専門に研究しながら、このマイナスな呼び方が2歳児の見方を狭め、影の側面にばかり目を向かせているのでは、という違和感がわいてきました。2児の子育ても経て、現実の子どもの豊かさとの間にギャップがあるように思えてきたのです。

 たかが言葉、されど言葉。我々は言葉に振り回されています。刷り込まれている言葉のリフォームが必要だと感じました。

 ブラブラ期という言葉は、チベットの留学生の話から着想を得ました。彼女に「第一次反抗期」について説明しても、「そういう子どもの姿は見たことがない」と言って腑(ふ)に落ちないようでした。彼女の実家がある村では、乳児は親と一緒に畑や街の仕事場に行く。4、5歳になると、農耕や牧畜を手伝うこともある。「では2、3歳は?」と聞くと、笑いながら「ブラブラしています」と答えました。私は、2歳児の躍動的な姿とこの自由な語感が、ぴたっと合うように感じました。

 その村では、2歳前後の子は排泄(はいせつ)したくなったら道端でして通りかかった大人にお尻を拭いてもらい、おなかがすいたら近くの家を「コンコン」して「ごはんください」と言うのが日常だそうです。

 心理学は欧米が先行しているため、2歳前後の呼び方は「ネガティビズム」「テリブル・トゥー(魔の2歳児)」など否定的な用語が支配的です。ただ、南米を主なフィールドにした心理学者バーバラ・ロゴフも「世界中のほとんどの国では、2歳児についてマイナスの形容をしていない」と2003年の著書に記しています。

 2歳児とは、考えてから行動するのではなく、行動しながら考え、大きな目的ではなく、小さな楽しみをつなぎ合わせて過ごす人たちなのです。例えば、散歩に行っても、すぐ「こんな所につくしんぼがある」と長い時間触って楽しんだ後、「アリがいる」と気づいて座り込んでじーっと見る。その最中に大人が早く目的地に行こうよと引っ張ると、泣いて嫌がるでしょう。好きなことを好きなだけやればいいと思います。ブラブラ期と呼べば、大人がイヤイヤをどう封じるかという消極的な対処ではなく、どう子どもをブラブラさせるかと積極的に考えられるのではないでしょうか。

 しかし、現実の日本社会はブラブラを阻むものだらけです。「ワンオペ育児」と自分の育った市区町村以外で子育てする「アウェー育児」で二重に孤立する母親は、自宅で子どもと長時間1対1で居続ける負担で、ブラブラに付き合えません。そうすると子どもは体を動かし足りず、おなかもすかず、眠くならない。食べない、寝ないで親子ともにストレスがたまり、イヤイヤが増幅していきます。

 では、何から始めればよいか。親も周囲の厳しい視線がなければ、ゆったりした心やまなざしの中で、もう少し自由にさせてあげたいはず。私が提案するのは、まず、道を安全にブラブラさせてあげること。手始めに、子どもが道路や歩道に落書きする自由を保障してはどうでしょう。全ての子にろう石を配り、近所の道路にいっぱい絵を描けばいい。子どものころ、道端で描いていませんでしたか?

 2歳児のブラブラを保障できる社会は、間違いなく他の年齢の人たちも生きやすい社会のはずです。(聞き手・田渕紫織)

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