地震時の保育所 親への連絡や食料備蓄に課題

避難所生活のイラスト(笑顔)
日本経済新聞様
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大阪府北部で震度6弱を観測した地震では、朝の発生時に多くの子供が保育所に預けられていた。交通機関のまひで保育士が出勤できなかったり、共働きの両親に連絡がつかなかったりして現場では混乱もみられた。災害時の行動計画や食料備蓄は事業者ごとにばらつきがあることも分かり、専門家は「今回を教訓に詳細な計画を定めるべきだ」と指摘する。

 「交通機関が止まり、職場に来られない保育士が10人以上いた。備えはしていたが、今回いろいろな課題が分かった」。大阪市内で約10カ所の認可保育所などを運営する会社の幹部は振り返る。

 18日午前7時半の開業とともに子供が集まり、地震の起きた約30分後にはすでに各施設に5~20人が預けられていた。普段よりは少なかったため保育に影響はなかったが、本部から各施設に電話がつながらず、職員や子供の安否が確認できたのは2時間後だった。

 同社の防災計画は「保護者に連絡し、できるだけ早く引き渡す」といった基本的な内容にとどまっていた。幹部は「保護者に連絡して迎えに来てもらうだけでなく、時間帯や震度によって対応を決めるなど具体化する必要がある」として計画を見直す考え。首都直下地震の発生が想定される関東でも認可保育所を運営しており、「教訓を全社で共有したい」と話す。

 大阪市北区の認可外保育所は地震後に4人の子供を一時預かったが、その後に休業を決定。保護者に電話で連絡したが思うようにつながらず、全員を引き渡すのに約5時間かかった。同施設は「震災時は電話が通じないことを前提に、(無料対話アプリの)ラインで連絡する方法に改めた」と説明する。

 市内には認可や認可外を合わせて約1千の保育所がある。市は約60の市立保育所に約1千人いたことを把握できたが、当時は0~2歳を中心にさらに多くの子供が預けられていたとみられる。

 大阪市は、災害時の行動計画を策定するためのマニュアルを各施設に提供。ただ、受け入れ人数や立地が異なるため認可の有無にかかわらず内容は保育所に委ねられている。国の防災指針では企業や家庭に1週間分の食料などの備蓄を推奨するが、保育所ごとに対応がまちまちな状況も明らかになった。

 約170人の子供を受け入れる大阪市北区の認可保育所は「2日間はしのげるが、1週間分はない」と打ち明ける。別の認可外保育園も「保護者が迎えに来ることが前提。用意は1日分しかない」と話す。市内の外食チェーンの運営会社が展開する企業主導型の施設は、アレルギー対応の保存食を含め約1週間分を確保しているという。

 徳島大環境防災研究センター長の中野晋教授(地域防災学)は「復旧作業のため子供を預けざるを得ない保護者もいる。施設は専門家の支援も得て、保育を継続するための災害時の行動計画を綿密に立てるべきだ」と指摘。「都市部で保育所が増えれば経験の浅い職員も多くなる。保育士の養成課程で災害対応を学んだり行政が研修を実施したりする取り組みも必要になる」と話している。

■保育活動6割で「困難」 東日本大震災で調査

 2011年の東日本大震災後に青森、岩手、福島、茨城、栃木、千葉、東京の7都県の保育施設を対象に実施した調査では59.5%が「震災当時、保育活動に困った」と回答していた。
 調査は、東京都で保育園を運営する社会福祉法人の石井博子理事長らが11年10月に実施。日本保育協会会員の施設にアンケートを郵送し、665施設から回答を得た。
 「保護者への連絡が困難だった」との回答は73.8%。多くが固定電話や携帯電話で連絡を試みており、震災後はメールに改めた例が目立った。
 事前の備えも十分とは言えず、「避難訓練を行っていない」という施設は41.5%。「備蓄で不足品が発生した」と答えたのは44.8%、「備蓄の基準がない」という施設も74.4%に上った。
 石井氏らの調査研究報告は「安全に避難させたのは職員の経験に基づくものが大きく、全職員でノウハウ共有と訓練が必要」と結論づけている。

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