[安心の設計]保育の質向上へ…主体的に遊ばせ成長促す

子供たちを見守る保育士のイラスト
読売新聞さま
------------------------------------------------------------------------------------------------

待機児童対策で保育施設が増える中、量だけでなく、質の向上を求める声が高まっている。厚生労働省は今年度、保育の質に関する有識者検討会を発足させ、議論を開始。独自に改革に取り組む保育施設も増えているが、人材確保などの課題もある。(樋口郁子)

運動会では団体競技 園児同士で相談も
「次は、10秒間、チャレンジするよ」。先生のかけ声を合図に、縄跳びを手にした4~5歳児たちが園庭に散らばる。10秒間、跳び続けられる園児の人数をクラス対抗で競う。東京都東村山市の認定こども園「秋津幼稚園」で、昨年12月に行われた縄跳び大会の風景だ。

認定こども園は幼稚園と保育所が一体となった施設で、秋津幼稚園には、共働き家庭や専業主婦家庭などの1歳以上の幼児約230人が通う。

同園が、保育方針を転換したのは約15年前。以前は、毎年秋の運動会で、複数の園児が組んで、扇の形などを披露する組み体操が、園の風物詩だった。「繰り返し練習させ、きれいに決まると達成感はある。ただ、それで子どもの成長を感じている職員は少なかった」と、小島聖園長は振り返る。

他の施設の取り組みを参考に、運動会の組み体操や遊戯をやめ、ゲーム感覚で取り組める団体競技を中心にした。すると、園児の集中力が目に見えて上がったという。

個人が競う徒競走の代わりにリレー種目を増やすと、足の遅い子をどうカバーすればチームが勝てるか、園児同士で相談する姿も見られるようになった。

「以前は、普段の保育でも、『こっちを見て』『先生のお話を聞いて』などと、こちらが一方的に呼びかけることが多かった。今は、子どもたちのやりたいことを引き出すために会話が増え、保育が楽しくなった」と、職員の鈴木真理恵さん(47)は話す。



保育園や幼稚園の教育・保育内容には、国が定めた基準がある。認可保育所の場合、「保育所保育指針」で、基本的な考え方や発達段階ごとの目標が細かく示されている。

ただ、日々の活動は保育施設に任されており、施設ごとに違いがあるのが現状だ。近年は、保護者の要望もあり、英語や体操、計算などを教える施設も増えている。

しかし、玉川大学の大豆生田おおまめうだ啓友教授(乳幼児教育学)は「質の高い幼児教育とは、本来、子どもの主体的な遊びを学びへと発展させ、成長につなげていくものだ」と説明する。

厚労省は昨年5月、保育の質の確保・向上に関する検討会を発足させた。保育施設の運営者や自治体の担当者などの意見を聞きながら、基準に沿った保育をどう実現するか議論を続けている。



改革を進める施設では、課題も見えてきた。

京都府舞鶴市の「さくら保育園」は3年前から、行事の練習や全員一斉の製作活動を減らし、自由な遊びの時間を増やした。

室内には、園児が段ボールなどで作った家や卓球台が置かれ、いくつかのグループに分かれた園児が、手作りの衣装を着て踊りの練習をしたり、ペットボトルを使った工作に熱中したりしている。

以前は、子どもの注意を引くため、職員が大声を出すことも多かったが、今はほとんどなくなった。「家でテレビばかり見ていたのが、自分で工夫して遊ぶようになった」と、驚く保護者もいるという。

ただ、ここまでの道のりは平坦へいたんではなかった。「遊ばせるだけではしつけにならない、小学校でじっとしていられない子になる、といった保護者の声もあり、何度も手紙を配り、方針を説明した」と森田達郎園長は話す。

保育士に求められる業務も増えた。常に新しい遊びをしているため、事前の準備も手間がかかるようになり、子どもを見守る人数も必要になった。森田園長は「よい保育の実践には、人材の確保が重要だと思う」と話す。

大豆生田教授は「質の高い保育は保育士のやりがいも高まり、長い目で見れば離職防止につながる。ICT(情報通信技術)の活用や働き方の工夫も進め、職員の負担を減らしていくことも必要だ」と指摘している。

[あんしんQ]障害者の働く場は?…「障害福祉サービス」 「一般就労」で大別
障害を持つ人が働く場は、大きく分けて、企業や行政機関などで働く「一般就労」と、支援を受けながら事業所で働く「障害福祉サービス」の二つがあります。

■福祉は、雇用契約有無で2種類

厚生労働省によると、一般就労している障害者は現在、約55万人います。障害者雇用促進法は企業などに、障害者を一定の割合(民間企業は現在2.2%)以上雇うことを義務付けており、人数は年々増えています。

「障害福祉サービス」は、一般企業などで働くことが難しい障害者が対象で、「就労継続支援事業所」と呼ばれる場所で働きます。「A型」と「B型」の2種類あります。

大きな違いは、雇用契約の有無です。A型は、事業所と雇用契約を結び、生活リズムの維持や金銭管理などの支援を受けながら、働ける事業所です。より一般就労に近く、最低賃金も保障されます。月の平均賃金は、約7万4000円(2017年度)です。全国に約3800事業所あり、約6万9000人が利用しています。

B型は、事業所と働く人が雇用契約を結びません。いわゆる「作業所」で、体調や能力に応じて柔軟に働くことができます。負荷も少ないといえますが、「工賃」として受け取る金額は、A型よりも低く、月約1万5600円(同)です。ただ、年齢や体調などで雇用関係を結んで働くのが難しい人でも、就労の機会を得られ、居場所として大切な役割を果たしています。全国に約1万2000事業所があり、約24万9000人が利用しています。

■見学して処遇の確認を

事業所での仕事は、パンやお菓子の製造やカフェ運営、農業、商品の組み立てや箱詰めといった軽作業――などさまざまです。障害者向け就職情報サイト「LITALICO仕事ナビ」の鈴木悠平編集長は、「同じ業種でも、仕事の内容や働きやすさは違うこともある。職場の雰囲気もさまざまなので、実際に見学し、賃金や工賃のこともしっかり確認して」とアドバイスします。

全国の事業所の情報は、福祉医療機構が運営する「障害福祉サービス等情報検索」でも検索できます。A型もB型も、利用するには、住んでいる自治体に申請する必要があります。窓口に相談してみましょう。

------------------------------------------------------------------------------------------------